「もこ もこもこ」(谷川俊太郎・作、元永定正・絵、文研出版)の表紙
「もこ もこもこ」(谷川俊太郎・作、元永定正・絵、文研出版)の表紙

 発達支援や特別支援教育に携わる人にとって、子どもの興味や関心を自然に喚起し、イメージをふくらませ、文字への親しみを高めるすてきな絵本は、子どもの発達を促す大切な教材でもあります。

 そんな絵本の一つが「もこ もこもこ」。シンプルだけど動きを想像しやすい絵と一緒に、擬態語、擬音語であるオノマトペがたくさん出てきます。私が読み聞かせをする際には、抑揚をつけ、絵本を揺さぶり、とっても多様な表現を用います。子どもたちは絵と私の声にどきどきして、じっと見入ります。

 「もこ」から始まり、「もこもこ」、そして「にょき」。ここまできたら、子どもたちの目は絵本にくぎ付けです。「ぎらぎら」では緊張感全開! まばたきひとつせず、固唾(かたず)をのんで見ています。そして「ぱちん!」。びっくりして、思わずお母さんに抱きつきに行く子もいます。

 えたいの知れないモノが四方に飛び立つ時にせりふはありませんが、私はいつも「シュー、シュー」と静かに表現していました。そして「ふんわふんわ」。穏やかな世界へのつながりに、子どもたちの握りしめた手は少し緩み始めます。

 これまで何人もの子どもが、一緒に「つん」「ぽろり」と言ってくれました。「ふんわふんわ」の動きを体で表現してくれました。また、言葉がない子も「もう一回読んで!」としぐさでお願いしてくれました。

 最近、作者の谷川俊太郎さんがこの絵本を自ら読み語る動画を見ました。私の読み方とほとんど同じで、思わず笑いました。「シュー、シュー」も同じように言っていました。これは、絵本を介した子どもと大人の「ことばあそび」に他なりません。

 谷川さんなどが執筆した「あたしのあ あなたのアーことばがうまれるまで 実践記録:障害児の言語指導にことばあそびを」(太郎次郎社エディタス)で、谷川さんは次のように記しています。

 「〈ことばあそび〉の〈あそび〉の部分は、障害・健常の区別をなくす力をもってると思うし、そういうものでなければ、障害児にとっても役に立たないんじゃないでしょうか。障害児たちの反応のなかに、人間にとってもっとも基本的なものがふくまれていて、それを見逃したくないと思っています。ぼくは詩をとおして、彼らと共生できるのを幸せだと思います。」

 私は、まだまだお話ができない小さな子も、ことばが遅れている障害のある子も、日本語が苦手な外国籍の子も、今でこそ偉そうに難しい言葉を使う大人だって、誰もがすてきな絵本の前では共通の言語を持ち、理解し合えるのだと思っています。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。