「みんな みんな ぼくのともだち」の表紙(文/福井義人、絵・字/高田真理子、絵/竹内雅輝、堀晋輔、馬嶋純子、福井達雨編、偕成社)
「みんな みんな ぼくのともだち」の表紙(文/福井義人、絵・字/高田真理子、絵/竹内雅輝、堀晋輔、馬嶋純子、福井達雨編、偕成社)

 「からだがよわくても、ちえがおくれていても、どんな子どもでも、みんなおなじ人間。うつくしい心をもった人間や。そして、ぼくのともだちや。」

 知的障害者施設経営者の子どもで小学3年生の「ぼく」は、知的障害のある子どもと生活しているから頭が悪いと、同級生から心ないことばでいじめられています。

 でも、「ぼく」は一緒に生活するケンちゃん、みちよちゃん、カツミちゃん、きよみちゃん、じゅんちゃん、のぶひこくんが知的な遅れはあるものの、とても優しい心を持っていることを誰よりも知っています。

 障害のある人もない人も互いに支え合い、地域でいきいきと明るく豊かに暮らせる社会を目指す考え方と、その実践を「ノーマライゼーション」といいます。1950年代に北欧で始まったこの潮流は北米にも伝わり、世界に広がりました。71年の「国連知的障害者権利宣言」、75年の「国連障害者権利宣言」にもノーマライゼーションの理念が反映されます。

 そして81年、「国際障害者年」の行動計画のテーマは「完全参加と平等」。日本でもこの年を境に、ノーマライゼーションへの取り組みが注目されるようになりました。

 この絵本が出版された1980年はそんな時代でした。しかし、当時の障害者施設は人里離れたところにあるのが普通。その後、施設を出て地域で生活するのがあるべき姿だと「脱施設化」が進められましたが、最近でもグループホームの建設に対して「障害者は怖い」「地価が下がる」などと住民から反対運動が起こるように、ノーマライゼーションの進展は十分とはいえないようです。

 障害のある人への偏見や差別は無知と無関心、あるいは一方的な哀れみと同情から起こります。

 冒頭の「ぼく」の言葉は続きます。

 「だから、ぼく わるくちいう ともだちを、「かわいそうやなあ。」とおもっているんや。」

 日本では障害者基本法に基づき、毎年12月3~9日を「障害者週間」と定めています。障害者が社会、経済、文化、その他あらゆる分野の活動に積極的に参加することを促進するため、国と地方公共団体が民間団体などと連携して、障害者の自立や社会参加を支援するためのさまざまな取り組みを展開します。

 2024年も12月に、内閣府のホームページで誰でも視聴できるオンラインセミナーが複数開かれます。セミナーを通じて「ぼく」の悲しみの意味に気づいていただき、ノーマライゼーション推進の一員になっていただけたらと思います。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。