「なまけてなんかない! ディスレクシアの男の子のはなし」の表紙(品川裕香/作、北原明日花/絵、岩崎書店)
「なまけてなんかない! ディスレクシアの男の子のはなし」の表紙(品川裕香/作、北原明日花/絵、岩崎書店)

 「きょうから1ねんせい がっこう、ともだち、たのしみ! べんきょう、たのしみ! どんなべんきょう するのかな?」

 りんぞうくんは、新しい生活への期待を胸に、小学校に進学しました。

 しかし、どうしてもひらがなが読めません。

 先生は言います。

「もうちょっと がんばろう みんな できてるぞ」

 ママも言います。

「まだ ひらがな おぼえてないの? ママもパパも できたんだから りんぞうもできる ちゃんと やってる?」

「おれ、ばかだぁ じ わからないよう ぜんぜん できないよう ようちえんに もどりたいよう」

 りんぞうくんの自己肯定感はどんどん下がっていきます。そんなとき、幼稚園の先生に再会。小学校生活はどうなるのでしょう。

 りんぞうくんのような、知的発達に遅れはなく、頑張っているのに、読み書きに困難さのある状態の子どもが通常の学級に一定数いることが分かっています。従来の学校教育では、努力不足や怠けていると誤解されがちでしたが、その中にはりんぞうくんのようなディスレクシア(発達性読み障害)、ディスグラフィア(発達性書き障害)の子どもも含まれ、出現率は7%程度とされています。

 こうした子たちに努力や根性だけで読み書きを強要しても、困難の改善にはつながりません。近年では、読み書きの特性を評価する心理検査が開発され、適切な実態把握とそれに基づいた適切な指導で、読み書き能力が向上することが研究で明らかになっています。

 また、全国にはLD(学習障害)親の会があり、保護者の相談窓口や学習教室の開催など、支援の輪が広がっています。

 絵本の中で、特別な指導の一つとしてかるた遊びが紹介されていました。これは単語の一つ一つの音に注目させる有効な方法です。日本語はひらがな50音に加え、「ょ」「っ」「ん」などの特殊な音があり、カタカナや漢字もあります。そのため、読み書きの困難さの特徴は子どもによって異なり、学び方もそれぞれ異なるのです。

 以前出会ったディスレクシアの小学生も「保育園が一番楽しかった。今も、これからの学校生活も、楽しいことなんてない」と悲観していました。しかし今、合理的配慮を受けて大学生活を送り、アルバイトや余暇も楽しんでいます。

 こうした子どもたちが失敗や挫折を重ね、不登校、うつや不安障害などの二次的な問題に陥らないためにも、ディスレクシアへの理解が進み、適切な指導や支援が受けられるようになることはとても重要です。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。