松江市出身の立体切り絵作家SouMaさんの作品展「SouMaの世界展」(山陰中央新報社主催)が、松江市殿町のカラコロ工房ギャラリーで開かれている。会場に足を運び、歩いて巡りながら制作の裏話などをじっくり聞いた。(増田枝里子)
リニューアルオープンしたばかりのカラコロ工房の地下ギャラリーが会場。SouMaさんによると、作品を展示する位置は一般的な展覧会基準より低く設定し、車いすの人や子どもにも近くで見てもらいやすくしているという。確かに周りを見渡すと、来場者が繊細な作品に顔を近づけてじっくり鑑賞している。

会場に入ってすぐは、SouMaさんの代表作と言える「ティアラ」「王冠」が並ぶ。紙をくりぬき、かつ立体感のある作品。額縁も特注のものだそう。よく見ると全ての作品の額縁にも、こだわりが見える。
SouMaさんが作家としてデビューした十数年前、どきどきしながら訪ねたのが松江市内の老舗額縁店「マルコブランコ」だった。和紙の種類や和紙のりの使い方などを習った。独学で立体切り絵の技術を会得したSouMaさんにとって、美術関係の知識を教えてもらえる貴重な場となったそうだ。現在も作品を飾るのにふさわしい額縁を提案してもらったり、眠っていた古い額縁と縁があったりし、創作活動の「伴走者」のような存在という。

こうした「出会い」は、SouMaさんのアーティスト活動の歩みを語るのに欠かせない。
和紙との「出合い」も大きな出来事だった。もともと洋紙で創作していたが、プロになるに当たり海外向けの作品や、保存性を考え、和紙を使うことを勧められるようになった。
海外受けや保存性といった理由ばかりでなく、SouMaさんは「何か運命的なもの、心ときめくものがあってこそ、(和紙を)取り入れたい気持ちが強かった」と振り返る。

和紙に向ける視線に、自身が納得した上で素材と向き合いたいという、SouMaさんの強い思いがうかがえる。
島根県西部の伝統工芸品・石州和紙の職人と出会ったのが転機となった。「こういう紙にしてほしい、などどんどん注文して」と言われ、やがてSouMaさん専用の特注和紙を作ってもらうようになった。
あくが強く虫がつかない「雁皮(がんぴ)紙」は、材料を栽培できず、自然に生えているものだけを使ってすく貴重な和紙。繊維が短く、1回のすき方では薄い素材になるため、SouMaさんは特注で厚みのある和紙に仕立ててもらっているという。貴重な紙で、一つの作品に使える量は多くない。限られた範囲で制作することもSouMaさんのこだわりという。

作品「墨の流れ」は、和紙の特性を生かして制作した。ぬれて半乾きの時にナイフで描くと、その跡は和紙の乾きにより締まり、隙間が生まれるという。どうなるかは乾かないと分からない線を想像しながら手を動かす。和紙の端「耳」の部分もあえて残し味わいを醸し出す。


作品「麦畑」「空畑」は佐賀県内で和紙工房を訪れたとき、染色が得意な職人に出会い生まれた作品だそうだ。染色した和紙は使ってこなかったが、こうした新たな出合いから挑戦することが好きで、緑色と青色の和紙をリクエスト。新作として制作した。線の太さをばらばらにして切れ目を入れ、水の量を変えてねじる細かさを変えた。風が吹く様子をイメージし、接着して作り上げた。

「い・ろ・ど・り」は、新型コロナウイルス禍のさなかに手がけた。SouMaさんは「コロナ禍は、人びとに外から何かを得る機会を制限した」と振り返る。そんな中でも、自分の内にある魅力や可能性を見つめてほしいと作った。使ったのは金箔(きんぱく)を埋め込んだ和紙。紙を削る「はがし切り」で、埋まっている金箔を表に出すようにし「自分の中にある宝物を探す」イメージで制作した。

空間全体をデザインした「ボーダレス2024」は会場でもひときわ目を引くインスタレーション作品。大作だが、畳んで宅配便で別の場所に運べるサイズに収まる。会場設営時にSouMaさんはいつも紙とナイフを持ち歩き、気分に合わせて変化を付けることもあるそうだ。今回は、下の方に散らす羽などを増やし「冬」らしさや「雪」を思わせる演出を施した。国内外どこでも紙とナイフがあればアレンジできる、身軽な制作スタイルも魅力の一つだろう。
作品からはSouMaさんがいつも、身の回りにある素材を大切に慈しみながら、楽しんで制作していることが伝わる。本人に話を聞いたからか、一つ一つの作品に使われている紙も、SouMaさんの気持ちに呼応して踊っているように見えたり、声が聞こえてくる気がしたりと、不思議な感覚に陥った。
…………………………
SouMaの世界展 1月13日まで。午前10時~午後5時(金、土、日は午後8時まで)。前売り900円(当日千円)、ペア前売り1600円(当日1800円)。中学生以下無料。31~2日は休館。