男子団体3位決定戦で銅メダルが決まり、喜ぶ(左から)河田悠希、武藤弘樹、古川高晴ら(写真は共同)
男子団体3位決定戦で銅メダルが決まり、喜ぶ(左から)河田悠希、武藤弘樹、古川高晴ら(写真は共同)

 東京五輪のアーチェリー男子団体で26日、河田悠希(エディオン)、古川高晴(近大職)、武藤弘樹(トヨタ自動車)の3選手が銅メダルを獲得した。日本の男子団体史上初の表彰台だ。メダルが懸かった延長戦の重圧の中、最後の1射で的のほぼ中心を射止めて決めた銅メダル。記者は高校時代にアーチェリー部に属し、競技の難しさを知るだけに熱狂した。

 競技としてのアーチェリーはなかなか触れる機会が無く、詳しいルールを知らない人がほとんどだと思う。学生や社会人になり、飲み会の場で部活の話になるたびに「弓道と何が違うの?」と聞かれ続けてきた元「アーチャー」(アーチェリーをする人の呼称)が、オリンピックで盛り上がった機会に基本的なルールや難しさを解説する。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 島根県高校体育連盟、鳥取県教育委員会などによると現在、島根県内でアーチェリー部がある高校は松江東、出雲工、松江高専の3校。鳥取県は部として活動しているのは鳥取商、倉吉東、倉吉農、米子南の4校で、米子西と米子東にもアーチャーがいる。記者は松江東高卒で島根県の実態は知っていたが、鳥取県で部を持つ高校が想像以上に多く、驚いた。島根ではアーチェリー部というだけで「珍しい」と言われたが、鳥取では十分に市民権を得ているのかもしれない。

 記者は15年前、物珍しさだけでアーチェリー部に入部。弓具一式をそろえると10万円を超えるため、矢だけ購入し、学校所有のお下がりの弓を使った。時には校舎裏の射場で、時にはグラウンドで3年間、ただひたすら矢を射続けた。島根県内3校で合同練習をしてしのぎを削ったのが懐かしい。

 

 ▼的の中心ほど高得点

 実はアーチェリーのルールはとてもシンプルだ。個人戦は一定の距離(30~90メートル)から円形の的に向かって矢を6本放ち、刺さった矢を回収しに行く。これを6セット。計36射が終わるまで繰り返し、合計得点を競う。団体戦では、複数の選手が交互に矢を放つ。距離や使う矢の本数、的の大きさは種目によって変わり、部活の大会では30メートル36射が一番多かった。

 点数は1射につき0~10点で、矢の刺さる箇所が的の中心に近ければ近いほど点数が高い。30メートル種目の的は直径約80センチで、一番得点の高い10点枠の範囲は直径わずか8センチほど。離れた場所からこの円を狙って矢を射るには、ものすごい集中力が必要になる。

 同じく矢で的を射る弓道は的中した回数を競うため、基本的には当たった箇所で有利不利が生じることはない。冒頭の「弓道とアーチェリーの違いは?」の答えとして一番分かりやすい点だ。

 

 ▼照準器具の数々

 的の中心を安定して射るために重要なことは何か。そもそも選手はどうやって的を狙っているのか。矢を射る弓本体には狙撃を補助するための器具が複数ある。

 照準の役割を果たす器具が「サイト」だ。漫画の「ゴルゴ13」に出てくるライフルに付いているスコープを想像してもらえばよい。矢を弓につがえた時、矢と平行になるような格好で弓の先端に取り付ける。丸い形の物が多く、弦を引いている最中はサイトの丸の中心が的の中心と重なるように狙う。

 もう一つ重要な器具「クリッカー」がある。弓の引き尺を一定に保つための小さな薄い板のような物。弓本体の、矢を載せる箇所上部にクリッカーの片端が固定されていて、固定されていないもう片端と弓本体とで矢を挟むように使う。

 弦と一緒に矢を一定の長さ引くと、矢を挟んでいたクリッカーと弓本体が触れ合ってカチンと音を立てるので、その瞬間に矢を放つ。クリッカーがあることで、毎回同じ引き尺で射ることができる。アーチャーは試合前の試射の際、器具の適切な位置を入念に調整して試合に臨む。

黒丸が「サイト(サイトピン)」、赤丸が「クリッカー」。どちらも重要な照準器具だ。

 

 ▼最重要は「安定した姿勢」

 もちろん、器具があれば簡単に高得点が出るわけではない。的までの距離が遠ければ遠いほど、矢を射る瞬間のわずかな動きのずれが矢の軌道に響く。記者が高校生の時、顧問に口酸っぱく言われたのは「姿勢を安定させろ」。照準器具は安定した姿勢で打てて初めて機能する。

 引き尺が一定でも、弦を放す瞬間に引き手が上下にぶれると矢は毎回違う方向へ飛んでしまう。弓本体を支える方の腕が縮こまっていると矢を射た衝撃で弓が動き、思うように飛ばない。弓本体を支える腕は肩から直線に伸ばし、弦を放した腕は真後ろに引く。言葉で言うのは簡単だが、実際はかなり難しい。

 記者が入部したての頃は正しい姿勢を覚え込ませるため、横向きの畳をイーゼルのような台に載せ、2、3メートルの近さで射る「近射」を重点的に練習した。近距離にもかかわらず狙った所に矢が飛ばず、とても苦労したのを覚えている。最初は筋力も弱く、やがて弓本体を支える左腕が縮こまり、その状態で放した弦が左腕を直撃して青あざになることが日常だった。

 練習を重ね、何も気にせず連射できるようになった頃には弓を引く右手の握力は60キロを超えていた。狙撃に集中できるようになるまでにかなりの時間を要する、奥深いスポーツだ。

男子団体3位決定戦で的を狙う河田悠希。弓を支える左手、弦を引く右手がともにきれいな直線になっているのがわかる(写真は共同)。

 ▼極限状態での劇的な1射

 簡単に基本のルールを知った上で日本勢がメダルを決めた対オランダ戦を振り返ると、いかに劇的な試合運びだったかがよく分かる。

 東京オリンピックパラリンピックガイドによると、アーチェリー団体種目は距離70メートル。的は直径122センチ、10点枠はCDとほぼ同じ大きさの直径12センチだ。両チームの選手3人が2射ずつ計6射するのを1セットとし、セットごとの合計得点が高い方に勝ち点2ポイント(同点は1ポイント)が入る。6ポイント先取で最大4セットまで行う。

 4セット終了時点で引き分けの時はシュートオフ(延長戦)になり、チームから交互に1人ずつ1本を射て合計得点を競う。ここでも同点だと、より的の中心を射た選手のチームが勝利となる。

 オランダ戦は日本が2、4セットを取り、2―2の同点でシュートオフに。オランダ先攻で日本3番手の武藤に回った時点で、オランダが10点、9点、9点、日本は9点、9点という状況だ。オランダの10点は比較的、枠の縁付近。勝利のためにはオランダよりも的の中心に近い10点を射なければならないという厳しい局面だった。

 ただでさえ難しい射撃を「この1射でメダルが決まる」という最もプレッシャーのかかる状況で求められるー。極限状態と言っていいだろう。ここで、武藤選手が放った矢は一切の気の迷いを感じさせず、10点枠内のさらに内側にある枠「インナーテン」(直径5、6センチ)内に突き立った。極限状態の中で緊張に打ち勝ち、メダルを文字通り「射止めた」。

 あまりに劇的な展開に全国のアーチャーは思わず声を上げたのではないか。報道で結果だけしか知らない読者は、メディアの映像資料でメダル確定の瞬間をぜひ見てもらいたい。日本勢が大活躍する東京五輪の中でも歴史に残る場面だ。今回の五輪日本選手の快挙を知り、アーチェリーに関心を持つ人が少しでも増えれば、アーチェリーを経験した1人としてとてもうれしい。

 ※Sデジホームページでは、山陰ゆかりの五輪出場選手を紹介しています。8月2日に陸上男子3000メートル障害の決勝戦に出場する三浦龍司選手の紹介記事はこちら

男子団体で銅メダルを獲得し、表彰台で笑顔の(左から)古川高晴、河田悠希、武藤弘樹(写真は共同)