分厚い文庫本版では4冊分。合わせると2千ページを超す。80歳で亡くなった「知の巨人」、評論家でジャーナリストの立花隆さんの著作の一つ『天皇と東大』である。日本が戦前、なぜ急速に天皇中心主義に傾斜していったのかを、右翼を「悪者」にせず、その流れもきちんと追うことで解き明かそうとした力作だ▼作家の故司馬遼太郎さんは、日露戦争の勝利から1945年までの40年間を、親に似ない「化け物」のような「異胎」「鬼胎」の時代と呼んで多くは扱わなかった。一方、立花さんは「天皇」という存在を巡る論争の中心舞台になった東京大の人脈や思想的系譜を描くことで、そこに正面から挑んだ▼本には今ではなじみが薄くなった「国体」という言葉が度々登場する。国民体育大会の略称ではなく、国のありようのこと。当時は天皇制そのものと捉えられ、その観念が「日本人の全生活を律する原理になっていった」という。その先には敗戦が待っていた▼立花さんによれば、「大日本帝国の死の上に築かれた」現代日本には、相当部分が養分として再吸収されたり、そのまま残ったり、よみがえって今も生きているそうだ▼「歴史はそう簡単に切れない」と、近現代史を学ぶ必要性を指摘した立花さん。コロナ禍での五輪が続く中、戦後76年が近づく。「知の巨人」が残した教訓を読み解き、今後に生かすかどうかは、われわれ次第だ。(己)