新型コロナウイルスの感染急拡大が止まらず、緊急事態宣言の対象地域が広がる中、東京五輪は後半戦に入った。菅義偉首相らは大会開催と感染急増との関連を否定するが、五輪が人々から危機感を失わせているとの「悪玉論」は専門家にも根強く、双方の溝は深い。
「これまでのところ想定内のレベルと考えている」。1日、記者会見した東京五輪・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長は、選手やコーチ、ボランティアなど大会に直接関係する人たちの感染は抑え込めているとの見方を示した。
▼対策アピール
大会関連で1日までに発表された陽性者は264人。武藤氏は「毎日3万件以上の検査を実施して、陽性者を速やかに隔離し、感染が広がらないよう適切な措置を講じることができている」とアピールした。
だが市中の「感染爆発」は収まる気配がなく、全国の新規感染者は1日、4日連続で1万人を超えた。
筑波大の原田隆之教授(心理学)は「緊急事態だと言いながら、国を挙げてお祭り騒ぎをしている状況だ」と指摘。五輪は感染拡大に「気分の高まりや危機感の低下といった間接的な心理面での影響があるし、自粛しないことへの格好の口実となる」と分析する。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長も7月30日の記者会見で「五輪があるということで、危機感が伝わりにくい状況がある」と認めざるを得なかった。
五輪開催が人々の気の緩みにつながっているとの指摘に対し、組織委関係者はいらだちを隠さない。「人々の気持ちが緩むから五輪をやめるべきだという論理なら、夏休みもやめるべきだという話になるのではないか」
▼減らない人流
菅首相は「人流が減少していることは事実」として、五輪は感染拡大の「原因になっていない」と強調する。
だが、NTTドコモがまとめた31日午後3時時点の人出は、都内12地点のうち7地点で前週を上回った。緊急事態宣言の地域拡大決定にもかかわらず、繁華街・渋谷では週末の夜、五輪ののぼりがはためく中を多くの人々が行き交っていた。
重量挙げの試合会場が近い東京・有楽町駅周辺では31日午後6時ごろ、酒を出しているかどうかの看板を確認してから、数組の客が次々と居酒屋に入店していた。江戸川区の男性会社員(59)は「飲食店を締め付けながら『安全安心』という言葉を軽々しく使って五輪を開催することに、腹が立つ」と憤った。
▼視聴者の心情
「日本国民の約90%が五輪を見ている。視聴率などの数字は人々が本当に感じていることを物語っている。国民は五輪を受け入れている」。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は共同通信のインタビューに、開催に否定的だった国民感情は好転したとの見方を示した。
だが視聴者の心情は複雑だ。朝から晩まで五輪中継を見ているという東京都内の40代会社員の女性は「放送しているので見てしまうが、感染状況を考えれば、開催されて良かったとは思えない」と話す。
厚生労働省幹部は「コロナと五輪を巡る社会全体の心理をデータでとらえることはできない」と、新型コロナ感染拡大と五輪開催の因果関係を示すのは難しいとの見方を示す。五輪を巡る「分断」は解消する見通しがないまま、大会はあと1週間を残すのみとなった。
「パラ観客判断慎重に」 公明代表 コロナ見極め必要
公明党の山口那津男代表は1日、宮崎市での講演で、東京パラリンピックを有観客にするか無観客にするかの対応に関し、新型コロナウイルスの感染状況を見極めて慎重に判断する必要があるとの認識を示した。「感染対策を徹底し、ワクチン接種を進めていく中で、状況がどう変化するかを見極め、判断しなければならない」と述べた。
東京五輪について無観客での開催を自身が促した経緯に触れ「結果的に無観客で大変良かった」と評価した。その上で「パラリンピックはどうなのかと心配する人もいるだろう」と指摘。8月24日開幕のパラリンピックが東京都などの緊急事態宣言と期間が重なるとして、観客対応に関しては「慎重に見極めていかなければならない」と強調した。
政府のコロナ対応を巡り「ちょっとちぐはぐなことがあった」と言及。酒類提供制限に関する西村康稔経済再生担当相の発言を挙げ「現場から厳しい反発が起きた」と苦言を呈した。ワクチン供給量の減少に伴う接種予約停止などの混乱も取り上げ、現場との意思疎通不足を指摘した。