エッセーに定評のある作家の向田邦子さん(1929~81年)の作品の中で『手袋をさがす』が好きだという人は、私の周りに多い。

 社長秘書の職に就いていた22歳の向田さんは「気に入った手袋が見つからないから」という理由でひと冬を手袋なしで過ごした。風邪をひこうが、注意をされようが妥協しなかったため、見かねた男性上司が忠告してき...