ミャンマーでクーデターが起きて半年が過ぎた。昨年の総選挙で圧勝したアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)に対し、国軍の弾圧が続いている。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)が加盟国のミャンマーに派遣する特使に、議長国ブルネイのエルワン第2外相を充てることを決めた。国際社会の仲介へ向けた出発点になる。

 国軍は民主派を排除した再選挙により支配の確立を狙っているが、民主化を約10年間経験した市民が抗議をやめることはないだろう。特使は拘束中のスー・チー氏、NLD議員らの挙国一致政府(NUG)、少数民族武装勢力など全当事者と会って対話を促し、実のある仲介をしなければならない。

 仲介は難航が予想されるが、危機打開には対話が必要だ。その実現には、日本をはじめ国際社会の支援と国軍への圧力が不可欠だ。国連のミャンマー担当、ブルゲナー事務総長特使の訪問も、国軍は受け入れなければならない。国連とASEANの特使が手を携え働き掛けを強めてほしい。

 ASEANは、4月にジャカルタで開いた臨時首脳会議で、暴力の即時停止、特使派遣、対話の開始など5項目で合意した。だが、特使の決定に3カ月以上が空費された。理由は不誠実極まる国軍側の態度にある。

 首脳会議に参加した国軍のミン・アウン・フライン総司令官の帰国後、国軍側は合意を「国内が安定した後に検討する」と表明し、特使の人選にも注文をつけて調整を長引かせ、この時間稼ぎの間にスー・チー氏を汚職など多くの罪状で訴追。今月初め「2年後をめどに再選挙」という政治日程を一方的に公表した。

 国軍は混乱を収めれば支配を既成事実化できると考えたはずだが、もくろみ通りには進んでいない。国軍の暴力で約950人が犠牲になったが、抗議は抑えられていない。チョー・モー・トゥン国連大使をはじめ国軍に服従しない外交官が各国で活動中だ。

 国内では医療従事者の多くが不服従運動に身を投じ、新型コロナウイルスが猛威を振るっており、最大都市ヤンゴンでは毎日千人以上が死亡していると伝えられる。人道支援を軍政に利用されない形で市民にどう届けるかが国際社会の課題だ。

 スー・チー氏は非暴力主義を貫いてきたが、民主派の一部が武力闘争に転じ、少数民族武装勢力とも連携。国内避難民が増えており、東南アジア地域の不安定化につながる懸念が強まっている。

 ASEANは「最も成功した途上国の地域機構」といわれてきたが、ミャンマーの混迷が続けば国際的な地位低下は必至だ。ASEANにとって1960年代の創設以来最大の危機との指摘もある。

 ミャンマーは長年、人権弾圧を理由に欧米の経済制裁を受け、国際的に孤立していた。だが97年のASEAN加盟が転機となり、経済開発に続き民主化も進んだ。ASEANは関与政策の成果と誇っていたが、クーデターで台無しになった。

 日本がASEANと協力して進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋」にとっても大きな足かせだ。日本は国軍に民主主義への復帰を迫るとともに、国軍を支えるような政府開発援助(ODA)は抜本的に見直さなければならない。