戦後間もなく制定され、1996年まで改正されなかった旧優生保護法の下で障害を理由に不妊手術を強いられたとして、兵庫県の男女5人が国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決があり、神戸地裁は旧法は違憲と判断した。同じ趣旨の訴訟はこれまで全国9地裁・支部で起こされ、6件目の判決。違憲判断は4件目となる。
その一方で、手術から提訴までに損害賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」が経過したとして他の判決と同様に請求は退けた。ただ国会議員が96年まで長期にわたり優生手術に関する差別的条項を廃止しなかったのは立法不作為とし、国家賠償法上、違法とする判断を初めて示した。
一連の訴訟で初の提訴は2018年1月。翌19年4月には議員立法で被害者に一時金320万円を支給する強制不妊救済法が成立、即日施行されたが、手術により子どもを産み育てる権利を生涯にわたり奪われるという被害をあがなうには程遠い。法にある「反省とおわび」の主体も「われわれ」となっており、国の責任は曖昧なままだ。
一つ、また一つと違憲判断が積み上げられ、今回の判決は救済法が対象外とする配偶者の損害賠償請求権も認めた。司法が除斥期間という壁をどうしても乗り越えられないなら、国会が法改正も含めてあらゆる手を尽くし、全面解決・救済に向けて動きだすべきだ。
旧法は「不良な子孫の出生防止」を目的に1948年制定され、知的障害などの遺伝を防ぐために不妊手術を認めた。96年まで、ほぼ半世紀にわたり存続。約2万5千人が手術を施され、このうち1万6500人近くは強制されたり、だまされたりして、本人らの同意はなかったとされる。
神戸訴訟の原告は聴覚障害などがある80代の夫婦2組と60代女性。いずれも60年代に手術を受けた。地裁判決は旧法について「優生思想に基づき、特定の障害や疾患を有する者を『不良』とみなし、生殖機能を回復不可能にさせる」とし「立法目的は極めて非人道的であり、個人の尊重を基本原理とする憲法の理念に反する」と指摘した。
しかし、それぞれの手術から提訴までに20年の除斥期間が過ぎ、損害賠償請求権は消滅したとした。被害者がそれを不法行為と認識できたかどうかにかかわらず、法律関係を確定させるため機械的に請求を切り捨てる仕組みで、他の訴訟でも大きな壁となっている。
ただし先行した一連の判決と異なり、今回の判決は「優生手術に関する条項が憲法上保障された権利利益を侵害するのは明白であり、速やかに改廃すべきだったのに、国会議員が96年まで改廃しなかったのは違法で、過失がある」と述べた。
その上で「個人の尊厳が著しく侵害された事実を真摯(しんし)に受け止め、多数の被害者に必要・かつ適切な措置がとられ、現在も根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施策が講じられることを期待したい」と締めくくった。
判決の積み重ねにより旧法が、憲法で幸福追求権を保障する13条や法の下の平等を定める14条、法律は個人の尊厳などに立脚しなければならないとする24条に、ことごとく反することが明確になった。被害者が納得のいく形の解決を目指し、積極的に議論に取り組むのが国会の責務だろう。