名古屋出入国在留管理局の施設で今年3月、収容中のスリランカ人女性が体調を崩して死亡するまでの経緯を巡り、出入国在留管理庁は調査報告書を公表した。女性は体調不良をたびたび訴えたが、職員らは「仮放免を得やすくするための誇張」とみて取り合わず、外部病院での点滴や受診の希望が責任者には伝わっていなかったという。
また死亡したのが土曜日で、医療従事者が不在だったため十分に対応できなかったとされ、医療体制の不備も浮き彫りになった。入管庁は収容者の体調に関する情報共有の在り方も含め危機意識に欠けたとし、当時の名古屋入管局長や次長ら4人を処分。併せて全職員の意識改革を求めた。
日本では不法滞在したり、事件を起こしたりして在留資格のない外国人は原則として全員が国外退去など処分が決まるまで入管施設に収容され、長期収容問題が国際社会で長年にわたり批判の的になってきた。政府は国外退去を徹底させる入管難民法改正案を提出したが、野党が女性死亡の真相解明を求め、審議は紛糾。成立を断念した。
入管行政に対する「人権侵害」などの批判は内外で根強い。今回の報告書により、さまざまな点で、それが裏付けられた形だ。改正案は次回以降の国会に改めて提出されるが、悲劇を繰り返さないため、抜本的な改革に取り組む必要がある。
死亡したのはウィシュマ・サンダマリさん。当時33歳だった。スリランカの大学を卒業して2017年6月に来日し、日本語学校に通っていたが、親からの仕送りが途絶えて学費を払えなくなり、留学生としての在留資格を失った。このため退去強制命令を受け、20年8月から収容された。
支援団体によると、ウィシュマさんは今年1月半ばに体調を崩し、まともに食事を取れず、歩くのも困難になった。報告書は収容者が診療を求めた場合、幹部に報告する内規があるが、現場で不要と判断すれば報告しないのが慣例になっているとし「組織として改善を要する」と指摘した。
またウィシュマさんがうまく摂食できず鼻から飲み物を出した際に職員が「鼻から牛乳や」とからかったのは「明らかに人権意識に欠ける不適切な発言だ」と認めた。
ウィシュマさんは仮放免を2度申請したが、1度目は不許可となり、2度目の申請中だった3月6日に亡くなった。上川陽子法相は「命を守るという基本中の基本を常に見詰め直していれば、寄り添った対応もあり得た」とし、入管庁に改善策の具体化を指示した。
政府は長期収容の解消を図るとして2月、難民認定申請中は強制送還しないとする現行規定を改め、申請回数を2回に制限するなどの入管難民法改正案を閣議決定し、4月に審議入りした。しかしウィシュマさんの問題も重なり野党が強く反発。逃亡の恐れがない場合は原則収容しないとするなど、より人権に配慮した修正案を提示したが、ウィシュマさんの監視カメラ映像公開を巡って対立が解けず、事実上の廃案に追い込まれた。
映像は遺族に開示されることが決まり、今後は修正案を巡る議論が焦点となる。国連機関などからの批判に真摯(しんし)に向き合い、先進国の中で極端に低い難民認定率の改善も含め、管理強化から支援・保護の拡充に転換を図ることが求められる。