首都圏中心だった新型コロナウイルス感染拡大の「第5波」は、全国的に新規感染者が急増し、過去にない「災害時に近い局面」に至った。政府、自治体が今直ちにやらなければならないのは、重症患者が入院治療を受けられず、救える命が救えなくなるような医療逼迫(ひっぱく)を回避することだ。

 6都府県に発令されている緊急事態宣言は、最も早い東京に4回目の宣言が出てから1カ月が過ぎた。しかし現状は10万人当たりの1週間の新規感染者数が首都圏のみならず30を超える都道府県で最も深刻な「ステージ4(感染爆発)」に達した。全国の新規感染者は1万8千人を超え過去最多を記録している。

 これは感染力が強いインド由来のデルタ株にほぼ置き換わったことが原因だ。厚生労働省に助言する専門家は、東京は感染拡大の勢いが半減した場合でも、確保できる想定の約6千病床が8月中旬に入院患者で埋まり、下旬には重症者用病床も使用率が約5割に上がり医療提供体制は限界になると予測する。

 菅義偉首相はワクチン普及に政府の総力を挙げると言うが、接種完了が全人口の3割台半ばという現状では、直ちにデルタ株の猛威を止め医療従事者の負担を解消する決定打にはならない。まずは眼前の重症患者らの命を救うことが最優先だ。

 第1は入院病床の確保だ。東京都は最大確保病床数を6400床とするが、病室を男女別に分けるなどの事前調整をする必要があるため緊急時にすぐ使えない病床もかなりの割合を占めるとされる。こうした調整を早急に進めれば入院患者の受け入れはスムーズになるはずだ。

 看護師らが常駐するホテルなどでの療養は、自宅療養に比べ単身者らが安心できる。ただ都が宿泊療養用に確保しているホテル約6千室も、看護師不足や設備上の問題で同時期に受け入れが可能なのは半分程度という。この稼働率アップも直ちに実行したい。

 軽症、無症状中心の自宅療養者は全国で4万5千人を超えた。微熱のみで基礎疾患もなかったため自宅療養となった東京の1人暮らしの30代男性が、容体急変で死亡するケースも判明した。このような悲劇を防ぐには、保健所としっかり連携した医師の往診、訪問看護など、自宅療養を支える態勢整備が不可欠だ。

 患者搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」が、1週間に全国の消防で計2897件に上り、その半分がコロナ感染疑い事案だったという。既に医療崩壊が始まったと言っても過言ではない状況だ。都道府県境を越えた広域搬送で重症患者を受け入れる協力も進めなければならない。

 夏休みの行楽シーズンに人出を抑制することも引き続き重要課題だ。政府は依然として飲食店中心の規制や、不要不急の外出自粛の要請などを繰り返す。だが、危機感を強めた全国知事会や専門家らは外出を厳しく制限する「ロックダウン(都市封鎖)」のような手法の検討まで求めた。

 首相は「日本にはなじまない」と否定的だ。戦前の反省に立って個人の権利を最大限尊重する憲法があり、その判断は妥当だろう。しかし知事らの危機感はどうやって解消するのか。首相はロックダウンを否定するなら、「お願いベース」にとどまらない有効な人出抑制の対案を示すべきだ。