新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、子どもたちの自殺がこれまでにない増え方を見せている。厚生労働省などによると、2020年に自ら命を絶った小中高生は前年に比べ100人多い499人に上り、統計が残る1980年以来最多だった。中でも、高校生は前年から60人も増えた。増加傾向は今年も続いている。

 コロナ禍で子どもを取り巻く環境は大きく変わった。自殺予防策を検討する文部科学省の有識者会議が報告書案で、その状況を詳述している。在宅勤務などで自宅にいる時間が長くなった親の仕事を邪魔しないよう気を使ったり、経済的不安などでストレスを抱える親に干渉、叱責(しっせき)されることが多くなったりした。

 さらに長期間にわたる休校に加えて、登校再開後も文化祭や修学旅行といった行事の中止・延期が相次ぎ、感染防止のため人との距離を十分に取るよう求められたこともあって、教員や友達に悩みを相談しづらくなった。このため家庭と学校で居場所がなくなり、追い詰められている恐れがあるとしている。

 子どもの自殺が急増するとされる夏休み明けを前に、ささいな変化も見逃さないため、子どもが使い慣れている会員制交流サイト(SNS)による相談体制の充実など対策を徹底し、家庭や学校、関係機関が連携して安全網の拡充を急ぎたい。

 子どもの自殺者数について昨年1年間の推移を見ると、コロナ禍の影響が色濃く表れている。長期間の休校がほぼ終わった6月に45人、短縮された夏休みが明けた8月は65人、学校行事やスポーツ大会などの中止・延期が相次いだ11月も58人と、それぞれ前年同月比で19人、31人、32人の増加となっている。この三つの時期で前年からの増加分の8割以上になる。

 原因・動機別では「進路に関する悩み」「学業不振」「親子関係の不和」「うつ病以外の精神疾患の悩み・影響」「うつ病の悩み・影響」「家族からのしつけ・叱責」などの順。このうち、うつ病は前年の8番目から5番目に上がってきた。

 学校別では、小学生14人、中学生146人、高校生339人。高校生の男子は前年と同じ199人だったが、女子は60人多い140人となり、原因・動機で、うつ病の割合が高くなっている。

 うつ病と、それ以外の精神疾患の広がりは特に中高の女子で目立つ。ある大学が昨年夏、公立小中学校を対象に実施した調査では、重症のうつ病だった54人のうち、44人はカウンセラーによるサポートや専門的治療などの支援を受けていないという結果が出ている。

 これらを踏まえ、有識者会議は「専門的な支援を要する児童生徒が非常に多くなっている」とした上で「これまでは精神科の専門治療につなげることで学校は十分に役割を果たしたとされてきたが、それだけでは自殺予防として十分とはいえない」と指摘している。

 もう一つ気掛かりなのは、今年1~5月で全体の自殺者が既に192人を数え、昨年同時期と比べ、34人も増えていることだ。SNSなどで子どもがアクセスしやすい相談窓口を増やすのはもちろんだが、家庭と学校で子どもの日常に目配りするとともに地域の医療機関や保健行政、児童福祉関係の機関、さらに民間の支援団体とも連携を取り、万全を期したい。