米ホワイトハウスの執務室で話すイーロン・マスク氏(左)とトランプ大統領=5月30日、ワシントン(AP=共同)
米ホワイトハウスの執務室で話すイーロン・マスク氏(左)とトランプ大統領=5月30日、ワシントン(AP=共同)

 互いに相手の秘密や弱点、失敗を暴露し合う「泥仕合」は、歌舞伎の演出用語の一つだそうだ。舞台上に泥田を作って役者が格闘する立ち回りの演目が由来。泥まみれになって激しく動いて争ったのが、現在の意味に転じた。見ている側もさぞや迫力を感じたことだろう。

 大物同士なのだが、こちらの“立ち回り”は迫力に欠ける。トランプ米大統領と実業家のイーロン・マスク氏。昨年の大統領選から蜜月関係にあったが、マスク氏がトランプ政権の目玉法案である大規模減税の延長を批判したのを機に決裂した。

 マスク氏は、大統領選で巨額の献金でトランプ氏を支援したのを踏まえ「私がいなければ負けていた」「恩知らずだ」と非難。対するトランプ氏は、政権から去るように伝えられたマスク氏が「気が変になってしまった」とこき下ろした。まさに泥仕合だ。

 政府効率化省を事実上率い、無駄削減に尽力したとの自負があるマスク氏。今後10年間で約2兆4千億ドル(約345兆円)の財政悪化を招くとの試算もある法案を容認できなかったのだろう。

 歌舞伎には泥仕合のほかに屋根や水中を舞台にした「屋根仕合」「水仕合」もあるそうだ。それに倣うなら米国の立ち回りは“SNS仕合”か。ただ、相手が見えない空間での罵(ののし)り合いで残るのは、痛快さより後味の悪さばかり。マスク氏は後悔の念を示したようだが、子どもたちには見せたくない。(健)