新型コロナウイルス感染「第5波」で、菅義偉首相による「ワクチン頼み」の対策は限界があらわになった。7月から自治体のワクチン需要の高まりに国の供給が追い付かず、接種速度が緩むなど事業が混乱。この間、感染力の強いデルタ株の広がりで、新規感染者の水準が40都道府県でステージ4(爆発的感染拡大)相当となり、国民の半数が1回目の接種を終えた今も猛威は止まらない。抑制シナリオには新たに、デルタ株に有効とされる3回目の接種論が浮上する。
首相は17日の記者会見でワクチン事業について「目標をはるかに上回るペースで進んだ」と実績を強調した。同時に「感染力が極めて強いデルタ株は、世界的にも予期せぬ感染拡大をもたらしている」などと述べ、感染者を減らせない現状への言い訳も付け加えた。
世界レベルで見ると、人口に占める1回目の接種済みの人の割合である接種率で、50%超となった日本は60位ほど。先進7カ国(G7)では最下位となり、トップのカナダ約73%で、6位の米国約60%との差も大きい。
首相官邸は当初、デルタ株の拡大とワクチン普及との「スピード勝負」を楽観視していた節がある。政府高官は7月中旬時点で「最初は劣勢でも、ワクチン効果ですぐにピークアウトできる」と指摘していた。官邸幹部は「重症者数を減らすため、高齢者に続いて40~50代への接種も急ぐ」と強調した。いったん感染者が増えても、その後、ワクチン効果で感染者が収まっていくイメージだった。
自治体接種の主力となるワクチン(ファイザー製)は、7月に国の供給量が減少した。首相は、供給減後の7月も「1日150万回接種は維持されていた」とするものの、自治体側の受け止めは違う。
7月、接種能力が高まっていた自治体は、これまで以上に打てるとしてさらなる供給を求めた。「国からの供給は従来の3割減だったが、わが市の接種能力に対しては7、8割減だ。あのときに大量にワクチンが来ていたら…」(首都圏の首長)との思いがある。
神戸市の担当者も同様の認識だ。「人員や態勢は整っていた。本当はもっと早く打てた」。供給減で予約を一時停止した影響もあり、今も遅れが取り戻せていない。
接種が政権の思惑通り10~11月までに完了したとしても、デルタ株の猛威を抑え込める確証はなくなっている。ワクチン未接種者も多い中、早くも議論が持ち上がるのが3回目の接種。「ブースター」と呼ばれ、デルタ株などに対し、追加接種によって免疫力を強める対策だ。
ブースターはイスラエルで本格的に始まった。米国も3回目を推奨する方針を決めたと現地メディアが報道する。導入の構えは英国やドイツにも広がる。
河野太郎行政改革担当相は17日、来年以降に3回目が打てるよう、ファイザー社と合意したと明らかにした。職場接種などで使われている米モデルナ製も、3回目分を確保しているという。
政府関係者は「まだ2回目も完了しておらず、政権の方針は固まっていない」としつつ、感染状況と世論の動向を見ながら、こう付け加える。「欧米の動きが早ければ、日本も年内開始の可能性を排除できない」