青森と聞いてリンゴを思い浮かべる人は多いだろう。国内生産の60%を占める特産品を冠したご当地アイドルグループもいる。メンバーがリンゴの品種を芸名にする「りんご娘」。津軽弁が特徴のタレント王林さん(27)も所属した。
発足は25年前。弘前市に東京からUターンした樋川(といかわ)新一さん(55)が、若者が流出し、活気のない地元を芸能を通じて盛り上げようと発起。家業の自動車販売の傍ら、小中学生対象のアクターズスクールを始めた。月謝は無料。歌やダンスに加え、大事にしたのは礼儀や言葉遣いをはじめとした「心の成長」。地元を愛して、地元のために行動することで夢を叶(かな)える-。そんな方針を掲げ、芸能事務所も立ち上げた。
人は人を見る。タレントの立ち居振る舞いが評判となり、事務所の仕事は順調に増えた。それでも図には乗らず「人づくり」を徹底。王林さんが高校生の時、大手事務所への移籍を相談された樋川さんは「青森で認知度は100%かもしれないけど愛されているの? 愛され度が100%になったら絶対に東京から声がかかる」と助言したという。
王林さんは愛されるため、より深く地元を愛したはずだ。助言通り、2022年にソロデビューし全国区でブレーク。津軽弁のなまりや「青森愛」が受けている。
先日、青森出張の際に樋川さんの話を聞き、思いを形にする誰よりも強い青森愛に地方創生の神髄を見た。(衣)