東京・池袋で2019年4月、乗用車の暴走により母子2人が亡くなり、9人が重軽傷を負った事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長で90歳の飯塚幸三被告に東京地裁は禁錮5年の実刑判決を言い渡した。被告は一貫して「車の異常が原因で過失はない」と訴えて無罪を主張していた。

 判決は「ブレーキとアクセルを踏み間違え、過失は重大」と認定。「自らの過失を否定する態度に終始し、事故に真摯(しんし)に向き合い、深く反省しているとは言えない」とした上で、高齢で体調が万全ではないなどの事情を踏まえても、長期の実刑を免れないと述べた。求刑は禁錮7年だった。

 事故後、運転免許証の自主返納が急増した。19年の返納は60万件を超えて過去最多となり、75歳以上が6割近くを占めた。20年6月には改正道交法が成立。違反歴のある75歳以上に免許更新時に実車試験で技能をチェックする運転技能検査を義務付ける。不合格なら免許を更新できない。22年6月までに施行する。

 だが高齢者による悲惨な事故は後を絶たない。地方を中心に買い物や通院で免許を手放せない人は多く、75歳以上の免許保有者は団塊の世代も加わる23年に約717万人に達すると予測される。加齢に伴うさまざまなリスクに目配りし、自動運転の普及なども含め、一層踏み込んだ高齢者対策が必要になろう。

 公判で被告は、検察側からブレーキランプはついていなかったという目撃証言や、走行時に車両の異常はなかったとのデータを示されても、過失はないとの主張を変えなかった。認知機能や運動機能の問題を指摘され「全くない」と反論したこともある。事故直近の認知機能検査で問題がなかったことから、自信があったのかもしれない。

 免許更新時に過去3年間で信号無視や速度超過などの違反をした人を対象とする運転技能検査を巡っては当初、実際に事故を起こしたわけでもないのに生活の足を奪ってしまうのは行政措置として重すぎないかとの声も警察庁内にはあった。

 しかし池袋事故を重くみて、事故を防止するために心身の衰えを直接チェックする検査が欠かせないと結論を出した。

 事故は被害者はもちろん、加害者となった高齢者にも取り返しのつかない結果をもたらす。ただ心身の衰えを自覚するのは難しい。周囲の見守りが欠かせないが、家族の助言を受け入れず、大きな事故につながった例も少なくない。免許更新に一定の制限を加えるのはやむを得ないだろう。

 警察庁は昨年8~9月、都内で技能検査を想定した模擬試験を実施。75歳以上の218人が参加した。全員に実際の検査で不合格になった場合どうするか尋ねると、145人が「合格するまで受検」と回答。うち「同じ免許を継続」は73人。残る72人は、自動ブレーキなどの先進安全機能を搭載した「安全運転サポート車(サポカー)」の運転を条件とする限定免許に切り替えるとした。

 免許への強いこだわりがうかがえる。サポカーや自動運転の普及はある程度、事故防止への効果を期待できるが、免許返納者のタクシーやバス料金を割引する制度を充実させるなど、考え得る限りの対策を積み重ねていくことが求められる。