全国563カ所にあるがん治療の拠点病院などのうち、大部屋を含む全病室でWi-Fiが無料で利用できるのは約20%にとどまることが6日、がん経験者らでつくる「#病室WiFi協議会」の調査で判明した。患者が医療機関を選ぶ際の参考にしてもらおうと実施し、厚生労働省で記者会見して結果を公表した。
利用できない病院からは電子カルテへの干渉などの懸念が示されたが、協議会は「Wi-Fiはライフラインだ。オンライン面会が広がれば、家族らが病院を訪れなくても言葉を交わし、患者を支えることができる。新型コロナウイルス感染拡大で病室での面会が制限される中、普及を進めて」と訴える。
調査は6~8月、メールや電話による聞き取りなどで行った。対象は厚労相が指定する「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」のほか、拠点に指定されていない国立病院、筋ジストロフィー病棟がある病院などで、回答率は100%だった。
結果によると、全病室で無料Wi-Fiが利用可能なのは松江赤十字病院や鳥取大学医学部附属病院など114病院(20・2%)だった。個室や外来といった一部で利用できるとしたのは153病院(27・1%)。一方で、全く利用できないとしたのは266病院(47・2%)に上った。このほか14病院が「今後整備予定」とし、16病院は有料など一定の条件で利用できるとした。
都道府県別の状況を見ると、各地域のがん拠点病院のうち、全室で無料Wi-Fiが利用可能な病院の割合が40%を超えたのは、山形、愛知、和歌山、徳島、愛媛、熊本の6県。これに対し、宮城、山梨、滋賀、広島、高知の5県は一つもなかった。東京は35病院中10病院だった。
無料Wi-Fiを導入している病院からは、利点として「高校生が授業にリモートで参加できた」「入院中も休職せずに仕事ができた」などの声が寄せられた。全く利用できないとした病院は、理由として「医療機器への影響が考えられる」「セキュリティー面に問題がある」といった回答があった。
協議会は7日、全室で無料Wi-Fiが利用できる114病院と条件付きで利用可能な16病院の名称をウェブサイトで公表する。
■会話が何よりの励み
新型コロナウイルス感染拡大によって医療機関への出入りが制限される中、入院患者にとってオンライン面会の重要性は高まっている。急性骨髄性白血病を発症した茨城県守谷市の会社員小宮諒さん(39)は、仕事を休んで入院した直後から面会が禁じられ、「画面越しの家族との交流が励みになり、長期間の厳しい闘病を乗り切ることができた」と感じている。
2020年3月19日夜、小宮さんは40度近い発熱に加え、左脚に強烈な痛みを感じ、救急車で病院に運ばれた。血液検査によって白血病が疑われ、そのまま筑波大病院へ転院。当時は国内で新型コロナの感染拡大が始まった時期と重なり、同27日以降は妻(40)とも面会できなくなった。
1週間ほどの一時帰宅が数回あったが、入院期間は半年以上に及んだ。抗がん剤や放射線による治療の過酷さは想像以上で「受けながら体が弱っていくのを感じた」。6歳と5歳の幼子を抱え「人生はどうなるんだろう」と不安にかられたとき、心を支えたのがスマートフォンだった。
「4段の跳び箱を跳べたよ」。小宮さんはほぼ毎晩、家族の食卓に画面越しに同席。子どもたちは保育園での出来事を話してくれ、妻とは子育てや治療費のことを話し合えた。自宅近くの公園で犬の散歩にも参加した。「家族との会話がなかったら、モチベーションが保てなかった」と語る。
ただ、スマホのデータ通信量には制限があるため不自由を感じ、同8月にWi-Fiルーターを購入。利用料は月6千円ほどだった。「身近な人との会話は患者にとってかけがえのないもの」と確信する小宮さん。「スマホの契約内容や資金力で、できる人とできない人の差があってはいけない」と、病院内での無料Wi-Fi普及を求める活動を続けている。