命の母カイロ(画像提供:小林製薬)
命の母カイロ(画像提供:小林製薬)

 長い猛暑がようやく終わったと思いきや、秋を味わう間もなく寒い季節 がやってきた。今や日本に四季はなく、「二季」になったとも言われる極端な寒暖差は、さまざまな市場に影響を与えている。その1つが使い捨てカイロ。冬のお出かけや外作業に重宝する使い捨てカイロだが、長すぎる夏のせいで年間の売り上げ損失は数十億円にものぼるという。一方で、女性の悩みに特化して通年商品として売れ続けているものもある。防寒グッズからヘルスケア商品へ、多様化する使い捨てカイロの最前線について『桐灰カイロ』を有する小林製薬に話を聞いた。

【写真】命の母ホワイトやじんわり温かいお腹用も…命の母カイロラインアップ

■“二季化”の影響で店頭展開は11月に、一方で冷えに悩む女性からは「年間を通して手放せない」の声も

 今年を象徴する言葉を選ぶ「現代用語の基礎知識選 2025 T&D保険グループ新語・流行語大賞」の30語の1つに、「二季」がノミネートされた。言わずと知れた昨今の気候変動による夏or冬の季節の二極化を表したワードだが、関西でトップシェアを誇る使い捨てカイロである『桐灰カイロ』を製造・販売する小林製薬の斉藤祥子さんは「二季化の予兆はすでに10年ほど前には売り場に現れていました」と振り返る。

「それ以前までドラッグストアなどの量販店では、お盆明け頃に春夏商品から秋冬商品に入れ替わるのが通例でした。使い捨てカイロもその頃から売り場に並び始めていたのですが、夏が長期化する近年はそれがどんどん後ろ倒しに。10月に入っても真夏日が続いた今年は、11月になってようやく使い捨てカイロを扱うお店もあったほどです」(斉藤さん/以下同)

 かつては半年間、店頭展開された使い捨てカイロも近年は4ヵ月程度へと大幅に短縮されている。もともと気温に影響を受けやすい商材ながら、「数十億円の売上減の年もあります」と二季化が市場にもたらした打撃は大きい。

「使い捨てカイロの購入目的の8割は防寒対策ですので、温暖化が続く今後はますます売上も厳しくなるかもしれません。一方で昨今、伸びているのがヘルスケア商品としての使い捨てカイロです。特に女性特有の冷えに悩む方からは『年間を通して手放せない』『夏に売ってないから冬に買いだめしている』という声を多くいただくようになっています」

■女性の冷えは“通年疾患”…「カイロ=温度が高い」発想を変えた“ヘルスケアカイロ”

 使い捨てカイロとして認知度が高いのが、ウサギのマークと金のパッケージでおなじみの『桐灰カイロ』。「とにかく温かい」「持続時間が長い」とその品質の高さから関西では長らくトップシェアを誇ってきた。一方で関東は『ホカロン』や『ホッカイロ』など競合がひしめいており、安価なものは100円ショップでも買えるなど価格競争も激しい。

「そのため弊社では価格ではなく、付加価値で勝負できる商品開発に努めてきました。中でも転機となったのが、マグマという名の通り、“めっちゃ熱い”貼らないタイプの『桐灰カイロ マグマ』をはじめとする 、自社カイロより高温または発熱量が多いカイロです」

 ネーミングもインパクト大な『マグマ』シリーズは、単なる防寒を超えてアウトドアレジャーなどにも重宝されるヒット商品となった。さらに同商品の開発で培われた温度コントロール技術は、“低温のカイロ”というこれまでにない発想へと発展する。

「使い捨てカイロの使用シーンの調査をしたところ、防寒目的ではなく、生理時 や冷え対策に『おなかに貼っている』という声が少なからずありました。しかし一般的な使い捨てカイロは室内で使用すると温度が上がりすぎ、低温やけどを起こすリスクもあります。高い温度ができるのならば、低い温度コントロールは可能ということで、温度はやや低めながら、じんわり温かさが続く『肌表面温度40℃』を設定しました」

 しかし、カイロ=温度が高いものというイメージが強いため、従来のブランドイメージでは、低温カイロは売れなかったという。そこで誕生したのが、女性特有の不調に寄り添うヘルスケア発想の使い捨てカイロ『命の母カイロ』シリーズだ。

 『命の母』といえば、女性ホルモンの影響で生じる諸症状を改善する生薬・漢方薬のシリーズ で、120年を超える信頼のロングセラーブランド 。そのブランド価値を踏襲することで、防寒対策用のカイロからヘルスケアに対応するカイロ へと視点を変化させた。現在はライフステージによって変化する冷えの質に寄り添った3種類の商品を展開している。

「中には初潮を迎えた頃から冷えを自覚する方もいますが、多くは20~30代頃から体の変化と共に冷えを実感し始めるようです。ちょうど社会に出て働き盛りになる世代でもあり、職場の冷房が効きすぎて辛い、腰の痛みや生理がひどくなったという声も多く聞かれます。そんな時には温めてほっこりしたいと、体を温めるケアをする方も増えています」

 さらに40~50代にかけては更年期に伴うこれまでとは違う不調が現れ始める。

「ホットフラッシュで肌は暑いのに体の芯は冷たかったり、上半身は火照っているのに下半身は冷えている"冷えのぼせ"といった症状もよく聞きます。女性の冷えは厄介な一生モノで、しかも季節に関係なく付き合っていかなければいけない"通年疾患"なんです」

■なぜ真夏にカイロ? 男性には理解されづらい課題も…「市場は小さくても現代のお困りごとに応える商品を届けていきたい」

 「通年を通してカイロを使用したい」という声があるにも関わらず、使い捨てカイロという商品特性から『命の母カイロ』シリーズも夏には店頭から消えてしまうことが多い。

「夏にも必要とする方がいる商品ですので、年間を通して扱ってもらえるよう、弊社の営業部隊も頑張っています。ただ、夏でも体を温めたい方は女性に多いこともあり 、男性には理解されづらく、実店舗に並びにくいという課題もあります。春夏にECモールでの売上がグンと伸びるのも『命の母カイロ』シリーズの特徴となっています」

 ECモールの口コミには「冷えが辛いのに店で売っていなくて、探し回った結果、やっとECで見つかった」、「夏場でも暑くなりすぎず、じんわり温めてくれるので年中使いたい」 といった切実な声も多く、二季化には左右されない使い捨てカイロのニーズが浮き彫りになっていた。

「防寒グッズとは異なる"ヘルスケアカイロ"は市場も小さいですし、他社ではほとんど扱っていません。しかし弊社のスローガンは『あったらいいなをカタチにする』。どんなにニッチでも、そこにお困りごとがあれば商品開発に取り組む企業文化を大切にしています。こういった現代ならではのお悩みにも寄り添えるヘルスケアカイロの可能性はまだまだあるはず」と斉藤さん。

 日本の二季化は定番の防寒グッズである使い捨てカイロの価値や概念を、次なるステージに進ませるきっかけになるかもしれない。

(取材・文/児玉澄子)