中国電力が再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)について、原子力規制委員会が新規制基準を満たしているとする「審査書」を決定した。これで審査に正式合格したことになり、今後の焦点は地元同意の手続きに移る。

 ただ気になるのは、電力関係者をはじめ、推進派の一部から聞こえる「できれば来夏までに決着をつけたい」という声だ。来年夏に予定される参院選で、再稼働の可否を争点にしたくないというのが理由だが、「政治日程ありき」の進め方には疑問が残る。

 島根原発2号機を巡る可否判断では、政治日程が影響したとみられるケースが過去にもあった。使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出して混ぜたMOX燃料を再び原発で使うプルサーマルの受け入れだ。

 中電が立地自治体の松江市と島根県に実施了解を申し入れたのが2005年9月。市内35カ所での住民説明会や市議会、県議会などでの審議を経て、最終的に松浦正敬市長(当時)が市議会で受け入れを表明したのは09年3月19日だった。

 4月12日に市長選、市議選の告示が迫っていた時期。選挙までに可否判断を下そうという意思が働いたとみていいだろう。

 受け入れの可否を最終判断する当事者だっただけに、政治日程はまだ理解できる。ただ、来夏の参院選で当選した参院議員は、再稼働の是非を判断する立場にはない。参院選を踏まえて可否判断のスケジュールを描くのは筋違いだろう。

 しかも、プルサーマルの審議が行われていたのは、東京電力福島第1原発事故の前で、原発の「安全神話」がまかり通っていた時代。今回の再稼働の可否判断には当然、当時より厳しい目が向けられることになる。

 これまで規制委の審査に合格したのは全国の9原発16基で、このうち5原発9基が再稼働した。しかし、福島第1原発や島根原発と同じ沸騰水型(BWR)で地元同意が得られたのは、東北電力が安全対策工事が完了する見込みの22年度以降の再稼働を目指す女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)のみだ。

 女川原発の場合、正式合格から地元同意まで約8カ月半というスピード決着だった。背景には、東日本大震災の大津波で800人以上が犠牲になり、人口減少が続く女川町にとって、経済活性化に原発再稼働が不可欠だったことがある。福島の事故を踏まえ、周辺自治体の一部の首長が「県民に新たな不安を背負わせる」と反対表明したものの、少数意見として受け入れられなかったという。

 仮に島根原発2号機の可否判断を来夏の参院選までに行おうとすると、6月議会までに、松江市長と島根県知事が判断結果を表明しなければならず、女川原発に匹敵するスピード感が必要になる。

 宮城県内だけの協議で済んだ女川原発に対し、島根原発の場合、30キロ圏内に含まれる鳥取県側との協議もあり、早期の判断は困難だろう。もちろん、事を急ぐあまり、住民への説明が不十分になってはならない。

 現在、「17日告示|29日投開票」の自民党総裁選に向けた動きが活発だ。ただ、政府の新型コロナウイルス対策が後手に回る中、政治空白が生まれることへの国民の反発は強い。

 政治日程ありきが容易に受け入れられないのは、総裁選も原発再稼働の可否判断も同じだ。