「金持ちを貧乏人にしたところで貧乏人が金持ちになるわけではない」ー。小泉純一郎元首相が推進した構造改革路線の司令塔となった経済学者の竹中平蔵氏は、こう言ってはばからなかった。小泉政権で経済閣僚などを務めながら、富裕層から集めた税金を貧困層に配る所得再配分政策を「集団的なたかり」として難じ、弱者への配慮は経済成長の足手まといと言わんばかりだった▼パイを大きくする成長と、果実を分け与える分配。そのバランスは時々の政権の性格を映す。成長と分配の好循環を目指す「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄首相は、久方ぶりの分配重視派▼安倍晋三元首相以来の分配政策は「トリクルダウン」と呼ばれるおこぼれ型。お金持ちがさらに豊かになれば、波及効果で貧乏人の懐も潤うという。しかし現実は、成長の果実が富裕層に偏り、低所得者の暮らし向きは改善されないまま格差拡大を招いたとの指摘もある▼新しい資本主義の具体的な中身はまだよく分からない。賃上げに積極的な企業を税制で優遇し、株式売却益など金融所得の課税強化を通じて中間層を厚くすると聞かされたが、金融所得課税の雲行きは怪しくなってきた▼とんがった富のてっぺんを削り、底辺をかさ上げして貧富の傾斜をなだらかにする。むき出しの資本主義をリベラルな岸田カラーでお色直しとうたっても、表紙だけでは民意は離れる。(前)