江戸時代の禅僧で、逸話が数多く残る良寛さんは「是非」を言い争うのを戒めたという。誰もが自分の考えを「是(正しい)」と思っているため「是と是の対決」となる議論では、何の解決も生まないからだ。おまけに自分の考えと似ていれば「非」も「是」と映り、違っていれば「是」も「非」となる▼そのため「耳を洗い、白紙の心に戻る」ことを勧めた良寛さん。さらに、人と人との関係では「いかなるが苦しきものと問うならば 人をへだつる心と答えよ」と人を差別したり、えり好みしたりしないようにと教えた。人間の世界は約200年前も、今も難しい▼「民主主義に最も大切な『国民の声』を丁寧に聞いていく」と約束した岸田文雄首相が就任10日後の今日、衆議院を解散する。自らの政治姿勢や方針への国民の意見は、まだ十分に耳に届いていないだろう。ならば選挙戦では支持者の声だけでなく、懸念や疑問の声にも、ぜひ耳を傾けてほしい▼というのも2017年の東京都議選の街頭演説では、プラカードなどで批判する一群に「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と反撃し、批判を浴びた首相もいた。気持ちは分からなくはないが、国民を選別して分断をあおっているように響く▼最後は多数決になるとしても、少数意見にも、きちんと耳を貸すのが民主主義のはず。そのためだろうか、口は一つだが、耳は両側にある。(己)