脚本家の倉本聰さんは東京を飛び出し、北海道富良野に移り住んだ。もう40年以上も前になる。都会の知識が役に立たない原野の生活に溶け込めたこつを聞かれ「その土地の人に迷惑を掛けること」と答えていた▼主宰した富良野塾で塾生の若者たちが共同生活する宿舎には当初風呂がなく、近所の農家に頼んで代わる代わるもらい湯に通ったそうだ。いざ宿舎に風呂ができ、迷惑を掛けなくて済むと思っていたら、今度は農家から「近頃すっかり顔を見せなくなって、あいつらどういうつもりだ」と▼これを職場に置き換えるとどうだろう。この春入社した新入社員たちは半年が過ぎて少しは慣れ、できることも増えたはず。衆院解散を巡る政局の話題で埋もれてしまった感はあるが、今月は来春入社する学生の内定式が山陰両県の企業でもあった。半年後には後輩に教える立場にもなる▼最初の頃は恐る恐るでも先輩や上司に質問できたのに、自立の芽生えと同時に「こんなことまだ聞いていいのだろうか」「迷惑なんじゃないか」とつい考えて尻込みしてしまう。そんな悩みもちらほらと▼サラリーマン川柳にこんな句があった。<教えてと 上司に聞かず グーグルに>。これだからスマホ世代の若者はと嘆くことなかれ。忙しそうにして、風呂に入りに来いと声を掛けようとしない、職場の〝ムラ人〟への無言の訴えのように聞こえなくもない。(史)