衆院選投開票日の10月31日、米子市で拉致問題の早期解決を願う国民の集いが開かれた。同市の松本京子さんが自宅近くで行方不明となり、この10月で44年になる。兄の孟(はじめ)さん(74)は「妹を自分が生きている間に、どんなことをしてでも助けてやりたい」と聴衆に訴えた▼その2週間ほど前、孟さんをはじめ拉致被害者の家族が、官邸で岸田文雄首相と面会した。孟さんは「岸田総理に私の思いの丈を言わせてもらった。重く受け止めたのか、それとも一被害者が言う言葉と捉えたかは分からないが、私なりに一生懸命しゃべった」と述べ、膠着(こうちゃく)する問題の進展を新政権に託した▼選挙戦を通じて与野党ともにどれだけの候補者が拉致問題に言及したのか。乏しいとされた争点は医療体制や経済対策に集中し、拉致に本気で取り組む姿勢を前面に出した政治家はいなかったのではないか▼拉致被害者5人が帰国して、19年が過ぎた。当時、世論は沸いた。まだ北朝鮮には連れ去られた日本人がいる。一刻も早い救出を多くの国民が願い、政治決着を強く求めた。それが政治家、国民ともに時が流れたことで、過去の話と錯覚していないか▼日朝交渉は進まず、北朝鮮はトランプ政権当時、米国との交渉に目を向けた。昨年1月から新型コロナウイルスを恐れて鎖国を始め、食料事情の悪化が伝えられる。被害者とその家族も高齢化し、今がまさに正念場だ。(釜)