「ゆく年や蕎麦(そば)にかけたる海苔(のり)の艶」。食通でそば好きだった劇作家・俳人の久保田万太郎の句だ。海苔がのっているとすれば「ざるそば」だろうか。詠んだ場所が当地ではないので、残念ながら「割子そば」ではないようだ▼新年へのカウントダウンが始まり年越しそばの時が近づく。「晦日(みそか)そば」とも呼ばれるこの風習は、そば粉を挽(ひ)く石臼が普及した江戸時代が始まり。当時は麺状にしたそばを「そば切り」と言ったそうだ▼思えば今年は、テレビで顔なじみになった著名人が相次ぎ他界。何か追い立てられるようだった。コロナ禍では国内でも年間1万5千人近くが亡くなり、自粛生活の影響で悶々(もんもん)とする日々が続いた。諸説ある年越しそばの由来の一つは、そばが五臓の停滞物を除くとされること。コロナの厄を、そばですっきり落とせたらいい▼来る年の干支(えと)は「壬寅(みずのえとら)」。前回60年前は、米国と旧ソ連が衝突寸前になるキューバ危機が発生。国内では受信契約が1千万件を超えたテレビの時代を迎えた。ビートルズがレコードデビューしたのもこの年だ▼今も米中対立の行方やコロナの影響は不透明だが、米大リーグの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太四冠など「希望の星」はこの一年で大きく成長した。俳人・高浜虚子に学べば、明日からは「去年(こぞ)今年(ことし)貫く棒の如(ごと)きもの」。目先の動きに惑わされず、大きく見据えて、信じた道を歩みたい。(己)