プロゲーマーを目指し、拳に力を込める永田涼介さん
プロゲーマーを目指し、拳に力を込める永田涼介さん

 立正大淞南高校(松江市大庭町)3年の永田涼介さん(18)が、主にコンピューターゲームをして生計を立てる「プロゲーマー」を志す。ゲームで稼ぐとは一体どんな世界なのか、なぜ目指そうと思ったのか。寅年に、夢に「トラ」イする永田さんに意気込みやプロの世界について聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 野球やサッカーといったスポーツと同様に、ゲームの腕前を競うことを電子の英単語「electronic」の頭文字を取って「eスポーツ」と呼ぶ。近年、eスポーツは世界的な盛り上がりを見せている。国内外で開かれる大会では1万人以上の観客がオンラインで見守る中、各国の猛者が数千万円の賞金を懸けて火花を散らす。プロゲーマーはこうした大会賞金や所属するプロチームに付いたスポンサーとの契約料、ゲーム配信による広告料などを収入に活動する。

 島根県内でもeスポーツの機運は高まりつつある。eスポーツの普及を目指す有志でつくる島根県eスポーツ連合によると、県内の高校のeスポーツ部は2020年までゼロ校だった。eスポーツ連合が県内の高校に、東京の企業による高性能パソコンやネット回戦の貸し出し事業の売り込みを始めたところ、21年に4校に部が創設された。

2021年8月、島根県eスポーツ連合と島根銀行が開催したeスポーツ大会の様子(資料)

 20年8月には初の山陰拠点のプロゲームチーム「Narra Tive(ナラティブ)」(松江市向島町)ができ、ゲームの大会や体験会を県内で精力的に開いている。少しずつ地盤が整い、初めて県内から高校生でプロゲーマーを志望する若者が現れた。

 

 ▼リアルとゲームの射撃が得意な二刀流

 永田さんは立正大淞南高校に21年4月にできたeスポーツ部「GEEK JAM(ギークジャム)」に所属する。射撃部にも属し、8月の全国高校選手権大会では団体戦男子ビームライフルで5位入賞するほどの実力。ゲームでも相手チームを銃などで倒す射撃ゲームを得意とする。9月の全国高校eスポーツ選手権では、161チームが8ブロックに分かれて参加したトーナメント戦で、ブロック予選の決勝まで勝ち進んだ「二刀流」だ。

 ゲームでは主に味方チームの後方支援に回る、縁の下の力持ちタイプ。相手チームの動きを後方から見ながら味方に指示を出すとともに、射撃部で培った狙いを外さない技術を生かして的確に相手を倒す。

eスポーツ部の部室で仲間たちとしのぎを削る永田さん。声を掛け合いながらひたすら練習を重ねる

 永田さんは「今は後方支援が得意だが、プロになるからには練習を重ね、競技の最前線で活躍できる選手になりたい」と目標を掲げた。

 

 ▼一度は諦めた夢

 プロを志した理由について、永田さんは「高校にeスポーツ部ができたのが一番のきっかけ」と振り返る。

 永田さんは安来市出身。小学2年の時に初めてテレビゲームを触り、それまで友達としていた鬼ごっこや缶蹴りとは全く違う遊びに衝撃を受けた。テレビ画面の中でキャラクターが自身の分身となって動き回るという、バーチャル体験ができる楽しさにのめり込んだ。

プロゲーマーを志したきっかけを振り返る永田さん

 射撃に興味を持ったのは小学3年の頃に人気ロボットアニメ「機動戦士ガンダム」を見てから。レーザー銃で敵を倒す様子に「かっこいい」と憧れ、ゲームも射撃系を好むようになったという。中学では射撃ゲームの「フォートナイト」「エーペックスレジェンズ」に打ち込み、高校は射撃部を希望して立正大淞南高校に進学した。

 実は中学生の頃、プロゲーマーになりたいと思った時期があったらしい。当時は今ほど県内でeスポーツが盛り上がっておらず、将来図が描けないため諦めた。中学生の頃の思いもあり、高校でeスポーツ部の創設が決まった際には「もう一度夢を目指せる」と奮い立ち、入部と同時にプロゲーマーになる決意を固めたという。

 永田さんの両親は「好きなようにやってみなさい」と夢に好意的で、コンマ一秒が勝負を左右する、プロの世界に挑む息子のため、映像などの処理速度が速い高額なパソコンを買ってくれた。永田さんは「夢を後押ししてくれる両親のためにもプロになって恩返ししたい」と力強く話した。

 

 ▼専門学校に進学、技術向上目指す

 永田さんは卒業後、広島県内のプロゲーマー養成の専門学校に進む。技術向上の講習やプロチームのマネジャーを経験し、1年後にあるプロチームに向けた自己PRの場で、チームから指名を受けるとプロゲーマーになれるという。プロ野球のドラフト会議のようだ。

 山陰拠点のプロチームのナラティブを第1志望にする。日々、録画した自分のプレーを見返し、立ち回りを研究する。永田さんは「自分の動きが良かったか悪かったか、必ず考えて次に生かす。ゲームは楽しむものだが、プロになる以上、腕を上げられることは全てやる」と妥協しない。

真剣な表情でゲーム画面に見入る永田さん。プロを目指す以上、プレーに一切の妥協を許さない

 永田さんのプレーについて同じ部の2年、布野俊一朗さん(17)は「どんな状況でも守ってくれる、頼れる先輩」と絶大な信頼を置く。顧問の畑山友朗教諭(35)は「優しい性格で部員からの信頼が厚いが、勝ちには貪欲。勝負中に必ず自分が目立てる場所を作る」と人柄も含めて腕前を評価する。「どのプロチームに入っても(高校の)専属コーチになるよう今からお願いしている」と笑う。

 部からの期待を背負う永田さんは「国内ではまだまだ発展途中の業界でやっていけるか不安はあるが、目指すからには全力で行く」と抱負を語った。

 

 ▼記者とゲーム対決、結果は…!?

 永田さんとゲームジャンルは違うが、記者(31)も音楽ゲームを長年続けてきた。同じゲーマーとして、プロを目指すと言える腕前にはとても興味がある。せっかくなので、互いの地元で1回ずつ対戦する「ホーム・アンド・アウェー」形式を参考に、永田さんと記者が互いの得意ゲームで対戦した。

 
 

 永田さんが得意とする射撃ゲーム「エーペックスレジェンズ」で、記者が少しでも永田さんの操作するキャラクターの射線に入ると、容赦なく銃弾が浴びせられた。記者も永田さんのキャラクターに向けて射撃するのだが、ほとんど当たらない。ゲームでは射撃の反動まで忠実に再現され、同じ箇所を続けて撃ち続けるのは至難の業だ。永田さんはその反動すら完全に制御し、的確に記者を狙った。これがプロを目指すゲーマーの腕か。射撃部の経験と、ゲームの練習で培ったであろう射撃能力の前に、記者はなすすべなく敗北した。記者が得意の音楽ゲームでの熱戦は、ぜひ動画を見てもらいたい。

 一度は諦めた夢を追い、プロゲーマーの世界に飛び込む永田さん。射撃部で全国上位に入った「二刀流」の技術とハートを、専門学校でさらに高められれば、夢に近づく。未知の世界に飛び込む若者を頼もしく思った。