政府は通常国会に提出を目指すドメスティックバイオレンス(DV)防止法の改正案で、裁判所がDVの加害者に被害者の自宅や勤務先などに近づくのを禁じる「保護命令」の対象に、言葉や態度で相手を追い込む精神的暴力や、中絶を強要するなどの性的暴力を加える。併せて命令違反の罰則を厳しくし、接近禁止命令の期間も延ばす。
内閣府によると、2020年度のDV相談件数は過去最多の19万30件に達し、19年度の1・6倍になっている。そうした中で20年4~10月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を機に開設したDV24時間相談窓口に寄せられた被害相談全体の6割近くを精神的暴力が占めた。
現在、保護命令の対象は身体的暴力と、生命などに対する脅迫に限られており、被害者や支援団体から対象の拡大を求める声が上がっていた。ただ、市町村の相談窓口増設や行政と民間シェルターの連携など課題は山積している。中でも、最近とみに指摘されるようになったDVと児童虐待との密接な関連について早急に手を打つ必要がある。
DV被害者の支援に当たる全国の配偶者暴力相談支援センターと児童相談所の間で情報共有や連携強化を図り、どちらが先に被害相談を受けても、その陰に隠れているもう一つの被害や予兆を見逃さず、十分支援できる体制を整えるべきだ。
改正案の素案によると、保護命令の対象を拡大するほか、命令違反の罰則を現行の「1年以下の懲役」から「2年以下の懲役」にし、接近禁止命令の期間も6カ月から1年に延ばす。また加害者が会員制交流サイト(SNS)を通じ、しつこく連絡して、つきまとうといった行為も禁じる。
被害実態を踏まえた改正といえるが、それに加え、支援センターと児相が連携しやすくなる法整備などを検討したい。
内閣府は全国20歳以上の男女5千人を対象とするアンケートで、女性1807人を含む3376人から回答を得てDVの調査結果をまとめ、18年3月に公表。女性の約3人に1人が被害を受けたとし、約7人に1人は「何度もあった」と答えた。子どものいる被害女性の約3割は子どもの被害も認識していた。
19年度の調査では、全国の支援センターに相談した子どものいる3万7044人の6割に当たる2万2337人が面前DVを含め、子どもの虐待もあったと回答した。
18年に東京都目黒区で5歳女児が、19年には千葉県野田市の小4女児が父親から虐待を受けて亡くなり、いずれの事件でも、夫からのDVで強い支配下に置かれていた母親は子どもを守れず、十分に食事を与えないなどして虐待に加担した。
コロナ禍で生活不安や経済的困窮を背景にDVが急増して家庭環境が悪化する中で、虐待のリスクは高まっている。20年度に全国の児相が対応した虐待の件数は初めて20万件を超え、虐待の潜在化も懸念されている。
支援センターは虐待を発見した場合には児相に通告する義務があるものの、児相を含む関係機関に相談者の家庭の状況を照会する権限はないなど、連携がスムーズに進んでいるとは言い難い。DVと虐待は重なり合う部分が大きく、支援センターと児相が、お互いの専門分野に理解を深め、合同で研修やリスク評価を行う仕組みも考えたい。