松江市中心部を歩いていると古書店を見つけた。ガラス越しに陳列してあった『世界の旅 中国/朝鮮』(河出書房新社)が目に留まった。蔵書は増やしたくないが時節柄、家にこもる時間が長くなりそうで思わず購入した▼1969年の発行。外貨持ち出し規制の緩和、いわゆる海外旅行自由化から5年が経過していたが、ガイドブック的な要素はまるでない。まだ海外旅行に現実感がなく、外国の様子をうかがう図鑑のような構成になっていた▼全国紙元特派員が執筆する北京の紹介は、天安門広場で毛沢東主席が登壇し、熱烈に支持する紅衛兵と呼ばれた学生や労働者が「毛沢東語録」を振りかざす様子を描写する。写真グラフは故宮博物院や天壇といった伝統的な建築物もあるが、「毛主席万歳」のスローガンや肖像画が目立つ。個人崇拝を否定する者、疑いある者を糾弾する暴力的大衆運動・文化大革命が進行中だった時代を物語る▼巻末には中国旅のガイドが記載されているが「貿易促進や文化交流のため中国政府の許可または招待を受けた者しか入国できない」とある。「ゼロコロナ」政策で入国のハードルを上げ、「習近平思想」を広めようとする今の中国とそっくりで見入ってしまった▼その毛主席が訪中した田中角栄首相と面会し、日中の国交が正常化して、今年9月で半世紀を迎える。節目の年に友好関係が深まるかはまだ見えない。(釜)