太宰治の短編『千代女(ちよじょ)』は、作家を目指す少女の物語。少女は雑誌の投書で1等となり世間の注目を浴びたが、後が続かず鳴かず飛ばずとなる。<炬燵(こたつ)にはいって雑誌を読んでいたら眠くなって来たので、炬燵は人間の眠り箱だと思った>というストーリーの小説を書いたものの、誰からも評価されないまま終わる。1941年の作品ながら、80年が過ぎた今日も、炬燵は「眠り箱」。もっぱらリラックスするための暖房用品だ▼新型コロナウイルスの感染急拡大により、新聞社でもリモートワークが再開された。自宅の構造上、炬燵で作業せざるを得ないが、どうにも仕事がはかどらない。何より長時間執筆していると腰が痛くなる▼調べ物でパソコンを開くと、「番組で有名人がこう言った」「週刊誌によると」など、独自取材を全くしないネットニュースの多さが目に余る。ユーザーの間では「コタツ記事」だと批判されていた▼調べると、ジャーナリスト本田雅一さんによる造語だった。「ブログや海外記事、掲示板、他人が書いた記事などを〝総合評論〟し、コタツの上だけで完結できる記事」と11年前にツイッターで指摘していた▼コタツ記事で配信料を受け、なりわいにする会社がある。コストや手間暇をかけて取材をしても、引用という形で「コタツ業者」にかすめ取られる。鼻持ちならない気分になり、思わず炬燵から足を引き抜いた。(釜)