冬山登山の心得などを説明する久保昌之代表
冬山登山の心得などを説明する久保昌之代表

 中国地方最高峰の大山(1729メートル)で5日夜、登山者2人が遭難し、神戸市の男性(50)が亡くなった。厳冬期の大山は3千メートル峰に匹敵する危険性が指摘される。気象状況の軽視や登山歴の過信に警鐘を鳴らす大山プロガイド協会の久保昌之代表(67)=日本山岳ガイド協会認定登山ガイド=は「『山ヤ』にベテランという言葉はない」と訴える。

 大山は、富士山と同じ独立峰で季節風を直接受けるため厳冬期は荒天が続いたり、急変したりしやすい。5日午後は冬型の気圧配置で風雪が強まり、観測地点(875メートル)の積雪が180センチに達し、6日午前には5年ぶりに2メートルを超えた。

 ガイド歴32年で、年間100日程度の山行を重ねる久保代表は「荒れた大自然の中でわれわれの知識や技術、経験などは微々たる力しか持たない」と繰り返す。安全を確保し、眺望を楽しむために、登山は安定した天候が見込まれる場合に限るよう説く。

 今回の事故では遭難者2人が途中で別行動を取ったとみられる。天候の急変などで方向を見失った時は現場から動かず、体力が残るうちに雪洞や穴を掘って風を避けるのが鉄則。単独行動を避けるのは「弱っている人は何か起きても対処できない」からだ。体温を保つため簡易テント「ツェルト」にくるまり、非常食を食べる重要性も指摘する。

 命の危険を感じたら、ためらわず警察や消防へ連絡するよう勧め「厳冬期は悪天候の日が多く、すぐには助けが来ないと思うべきだ」と早めの判断を促す。

 鳥取、兵庫両県にまたがる氷ノ山でも6日午後に兵庫県西宮市の40代男性が遭難。雪洞を掘って夜を明かし、7日午後に救出された。氷ノ山はなだらかな山容で「下れば麓に降りる大山と比べ、下山する谷を間違えると道に迷ったり人里に降りられなかったりする」。山によって難易度が異なるという。

 何より大事なのは、刻々と移り変わる状況への対応は、登山歴が豊富でも限界があること。「ベテランだと思い込むと判断に迷いが生じ、取り返しのつかない事故につながる」とくぎを刺す。

 (田淵浩平)