冬の大山を登るようになって2年目のことだった。下山中に急斜面の沢を滑落したことがある。取材で山岳関係者に聞いた通りだった。重い頭の方が下を向き、逆さまになって滑りだした。必死に体勢を立て直し、体重をかけてピッケル上部のピックを雪面に突き刺した。足も大きく開いてブレーキをかけると、斜面の途中で体はピタリと止まった。

 冬山の装備や道具の使い方は所属する山岳団体で教わった。滑落時にピッケルをどう使うか。滑り止めのアイゼンは実際にどう登山靴に装着するのか。いずれも安全な場所を使って経験者から実地に手ほどきを受けた。

 今季の山陰では寒波のたびに山の遭難事故が続発している。2千㍍級の山は一つもないのに初心者はもちろん、経験者でさえ命を落とす。リスクは決してゼロにはできず、...