「ミスタータイガース」と呼ばれた往年の強打者、掛布雅之さんが初めて3割を打ったのは21歳の時だった。シーズン終了後、この先も結果を残していけるだろうか、とバットを握るのが急に怖くなったそうだ▼そんな時、鬼才とうたわれた棋士の升田幸三さんに諭された。「7割の失敗の質を上げなさい。それが10年後の3割の評価につながるから」と。掛布さんは3割を打つことだけに必死になっていたと気付かされ、そこからバッティング全体を大きく見られるようになった、と対談記事で語っていた▼おそらく多くの「失敗」を経験することになるだろう就活生たち。採用説明会が1日解禁され、活動が本格化した。民間調査で今春卒の平均エントリー数は28・5社というから、印象としては随分と多い。そのうち何社から内定を得られるかと考えると、打率3割どころではない厳しい世界である▼誰しもあれこれ受けずに希望する社に一振りで内定をもらい、就活という試合を早く終わらせたいと願う。当然の心理ながら、業界関係者は今の段階で志望先を絞り込まず、いろいろな企業に話を聞いて数多くエントリーするよう勧める。先日の本紙記事で読んだ▼この先、結果に落ち込み、不安に駆られることもあるに違いない。それでも就活の打席に何度も立つことで見えてくるものがある。それが10年後の社会人としての評価につながるから。(史)