改正育児・介護休業法が施行され、4月から社員への育休取得働き掛けが企業の義務になった。男性の育児参加で女性の負担を和らげ、子どもを産み育てやすい環境を整える狙いだ。10月には「産後パパ育休(男性版産休)」が創設される。
ただ「仏つくって魂入れず」では実効は上がらない。企業内で上司、同僚らが少子化問題への危機感を共有し、人繰りや労働生産性を改善できるか否かが「チルドレン・ファースト」の社会実現の鍵となる。
2020年度の男性の育休取得率は、前年度より5・17ポイント増でも12・65%。81・6%が取得した女性に育児負担は集中している。それでも男性が育休を取らない理由は「職場に迷惑をかけたくない」「職場が認めない雰囲気」といった職場への遠慮が多くを占める。企業側が積極的に取得を促せば空気も変わるだろう。
まず今月からは、職場の環境整備と育休取得の意向確認を全ての企業に義務付けた。企業は育休に関する研修をしたり相談窓口を置いたりするほか、男女を問わず社員へ個別に取得の意向を確認しなければならない。
これにより職場への遠慮や人事で不利益扱いを受ける不安が解消されることを期待したい。それには取り組みをチェックすることも必要だ。来年4月には従業員千人超の大企業には年1回、育休取得状況の公表が義務付けられる。企業は着実に実績を上げることを社会的責務と考えてほしい。
10月からの男性版産休は、通常の育休とは別に夫を対象とする新制度だ。妻の産休期間に合わせ、子が生まれて8週間以内に計4週分の休みを2回まで分けて取得できる。産後うつのケアなども必要な時期に、夫にもっと休んでもらう目的だ。この新制度も社会を挙げて何とか定着させたい。
厚生労働省の人口動態統計(速報値)では、21年に生まれた赤ちゃんの数は6年連続で過去最少を更新し84万2897人になった。死亡数から出生数を引いた人口の自然減は過去最大の60万9392人。鳥取県の人口約55万人を超え、減少速度は深刻と言うほかない。
新型コロナウイルス禍の経済低迷、生活の変化で結婚、妊娠を控えた突発的要因もあろう。だが、たとえ数年間でも少子化が想定を超えて進んでしまえば、コロナ明けのリカバリーが困難となり、歯止めのかからない人口減で社会保障制度は土台から揺らぎかねない。
コロナ禍による収入減、物価高への対応は、年金生活の高齢者に偏らず、少子化対策の観点から子育て世代への支援も重視すべきだ。非正規労働者は収入が不安定な上、育休が取りにくく、出産を機に退職を迫られることも多いとされる。フリーランスで仕事を請け負う人たちも含め、産み育てやすい環境の整備を引き続き追求してほしい。
育休、男性版産休中は、育児休業給付金や社会保険料免除により最大で賃金の8割が保障される。これが取得を促す経済的基礎と言える。ところが、育児休業給付金を支出する雇用保険の財政はコロナ対策の支出急増で危機に陥っている。
このため政府は、雇用保険の失業給付などへの対応分は4月から段階的な保険料率引き上げを決めた。だが育児休業給付分は据え置いた。社会全体で育休取得を促すなら、さらなる負担増も念頭に置く必要がある。