石見で仕事をしていた10年以上前、取材でよくお世話になる人から「新聞にはIターンやUターンばかり出てくる。地元に残って頑張っている人をもっと取り上げるべきではないか」という意見をことあるごとにもらった▼ニュース性を求める新聞は移住や帰郷といった話題に飛びつきやすい。外からの視点が郷土の魅力を再発見させてくれるし、「ようこそ」という歓迎の気持ちもある。紙面で紹介することは意義があるとは思う。一方で地元に住み続ける人々に「定住人口の核でいてくれてありがとう」と言うような記事は難しい▼もやもやを抱えているが、きのう付の本紙創刊140周年特集紙面「未来をつくる」の巻頭に大阪大の吉川徹教授(松江市出身)が寄せた文は共感しながら読んだ▼いわく、若者の流出を止める一つの解決策は、多様な県民の人生をリスペクト(尊敬)することである、と。都会に出るのも、地元に残るのも、一度出て帰ってくるのもそれぞれに尊敬すべき生き方。そんな価値観が広まれば居心地がよくなるはずだ▼同じ特集紙面に18人の若者メッセージが載った。山陰のどこが好きかの問いに「何かをしようとしたときに、支えてくれる大人がたくさんいる」ことを挙げる人が多かった。学校で地域で職場で、若い世代の声に耳を傾け、一緒に考え、時には行動もする。人生をリスペクトするとは、そういうことだろう。(輔)