米国の電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、短文投稿サイトの米ツイッターを買収する。「言論の自由」を掲げ、投稿管理やアカウントの凍結に慎重な姿勢を示し改革を打ち出しているが、ツイッターによるデマの拡散や暴力、差別を助長する投稿はしばしば問題になってきた。

 世界で数億人が利用するツイッターは公共性のある言論空間になっている。自由を最大限尊重するのはもちろん大事だが、社会に対する責任を自覚し、透明で開かれたサイト運営をすることがマスク氏に求められている。

 短い文章や写真、動画を投稿できるツイッターは、2006年にサービスを始めた。最近は政府機関、企業、政治家らも公式発表の場として利用している。ニュースを知らせたり、イベントや集会を告知したりするのにも広く使われるようになった。その分、フェイクニュースと呼ばれる偽情報が登場したり、暴力的な行動をあおる呼びかけが投稿されたりすることも少なくない。

 ツイッターは不適切だと判断した投稿を削除したり、投稿者のアカウントを凍結したりすることで、公共性に配慮してきた。例えば、トランプ前米大統領は、21年1月の米議会襲撃をあおったとしてアカウントを永久凍結された。

 マスク氏はツイッターが参加者の投稿を管理することに不満を抱いているという。「言論の自由は民主主義の基盤だ」「投稿の削除には極めて慎重であるべきだ」と訴え、約440億ドル(約5兆6千億円)で買収を提案。ツイッター経営陣も株主の利益につながるとしてこれを受け入れた。

 テスラを創業し、100万台規模のEVを量産する企業に育てたマスク氏は、いまや「世界一の富豪」とも呼ばれ、経営手腕は折り紙付きだ。しかし公共性のある言論空間の担い手としては、実績に乏しい。

 マスク氏が主張するとおり、言論の自由は民主主義に欠かせない。新聞やテレビのような既存メディアはもちろん、デジタル空間で生まれた交流サイト(SNS)も同じだろう。

 言論の自由と公共性の両立は難しい課題だ。規制対象にする発言や投稿の選別は、どんな決め方をしても異論が残る。しかし、不当に人を傷つける差別的な投稿やフェイクニュースが拡散するのを黙認していいのだろうか。デジタル空間でも一定の規律は必要だ。

 IT企業の規制をいち早く始めた欧州連合(EU)は、SNSなどで違法コンテンツや有害情報が横行するのを防ぐ措置を、サイト運営会社に義務付ける法案に合意した。米議会でもデジタル空間の規制を強める動きがある。国境を越えて行き交うSNSなどのコンテンツの規律は、グローバルな課題でもある。

 マスク氏がツイッターを非上場にする意向を示していることも懸念される。幅広い株主による監視がなくなるからだ。資本の力にものを言わせ、公共性に背を向けた改革に走れば、必ず批判を浴び、失敗するだろう。

 国内でもSNSを通じ、ワクチンの効果や副反応を巡り、根拠のない情報が広がったし、中傷やいじめも後を絶たない。言論の自由を守るのを基本に、有害情報に注意を払いながら、被害を防ぐ手だてを考えたい。