教室が足りない。右肩上がりの児童数に対応するため、出雲市立高松小学校(出雲市松寄下町)は2022年度、パソコン教室を普通教室に改修する。23年度以降は増築し、現在の22教室から26教室にする。
同校の全校児童は18年度607人で、学校別で島根県内10位だったが、22年度は676人で、県内6位に。住民基本台帳を基にした市教育委員会の推計で、26年度には764人になる。中井浩二校長は「ここまでのスピードで増えるのは珍しい」と、驚きを隠さない。
この春129人が入学し、1年生は前年度より1学級多い5クラスになった。下校前の終礼で、担任教諭が交通安全を呼びかけ、「信号がチカチカしたら」と尋ねると、一斉に「止まる~」の答え。例年にも増して校舎に響く子どもたちの元気な声は、雨模様となったこの日の空気も浮き浮きと弾ませた。
▼新たな宅地開発
ここ5年の県内小学校の「児童数トップ10校」をみると、松江市と出雲市が5校ずつを分け合う。上位の「顔ぶれ」から、校区内に以前から住宅団地がある上、新たな宅地開発やマンション建設が進められた地域にあることが分かる。
順位に変動はあるものの、22年度の児童数は、両市とも5校中3校が18年度と比べて増加。607人から676人に増えた高松小は、その中でも最大の伸び(11・4%増)となっている。なぜか-。
JR出雲市駅(出雲市駅北町)から車で約15分。北は旧大社町と接し、合併前の旧出雲市では「郊外」に位置した高松地区は、水田が広がる田園地帯だったが、近年その趣を変えた。
市の中心部を東西に貫く「大動脈」だった旧国道9号の交通渋滞緩和のため、地区内に整備された国道9号出雲バイパスに沿って、一戸建てやアパートが建ち並ぶ。
地区の世帯数は12年4月末の3455世帯から今年4221世帯に増加し、40代以下の人口割合は市全体(52%)を上回る58%。
農地から転じて宅地となり、子育て世代の30、40代の定住地となる地区の人口増加のサイクルがこれらの数字となって表れている。児童数の増加も、このサイクルの中にある。
▼街の姿変わる
宅地や商業地など、行政の戦略的なまちづくりの手法として開発区域と抑制区域を分ける「線引き制度」がないことが、他の「旧市郊外」を含めてみても、農地転用を後押し。さらに、思わぬ効果をもたらした。
土地の安さだ。1月時点の地価公示で住宅用途の出雲市の標準地10地点の平均価格(1平方メートル当たり)は2万7600円。線引き制度がある松江市(39地点)は4万9100円だった。
昨年築いた新居で夫婦と子ども2人の4人で暮らす、自動車整備士山本主税さん(33)=出雲市常松町=は旧平田市の出身。職場は松江市内にあるが、選んだのは高松地区の隣で、同じ旧市郊外の高浜地区。「安さが一番の決め手だった」と話す。
同じ経緯で、商業地を含む全用途の地価も安い。土地もあるため、ワンフロアでも売り場面積が確保できる。その上で、人口の増加が見込まれるとなれば、近年、小売りや飲食の大手全国チェーンが県内で初めての出店地として、出雲市を選ぶケースが相次ぐのも分かる。
自らも高松地区で農地を持つ、高松コミュニティセンターの野々村勝巳センター長(66)は「農家が高齢化し、担い手がいない。米価も安く、大規模な農地でないと利益が出にくい」と農地を手放す側に立ち、代弁する。決して前向きではないが、結果として街の姿は大きく変わり、「人口増加」の基盤となった。
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人口17万2775人(2020年国勢調査)の出雲市。2015年から山陰両県12市で唯一増加し、引き続き「17万人台維持」を掲げる。少子高齢化が進む人口減少時代、何が、どう人を引きつけるのか。背景とともに「街の骨格」を探った。(松本直也)