体育館に集まってきたのは日に焼けた2年生だ。島根県高校総体閉幕3日後の8日、出雲高校(出雲市今市町)の多々納雄二校長が、276人を前に熱弁を振るった。
「島根、日本、そして世界の未来を創るリーダーを育てたい」
生徒はこの春、文系、理系のいずれかを選び進級。体育系の部活動がひと区切りつき、気持ちの切り替えのために開かれる進路講演会で、真剣に耳を傾けた。
生徒育成方針に掲げられる、地域・社会のリーダーとして貢献できる人材とは。卒業後「こうなってほしい」と描く、学校側の思いとは。多々納校長は「地元に残らなくても、日本や世界へ羽ばたいてくれたらいい。離れていても出雲に益をもたらせる人材を育てるのが使命」と強調する。
▼区制の変更
校長の鼻息の荒さには「根拠」がある。2017~21年度卒業生に占める国公立四年制大学現役合格が年平均196・4人で、合格率63・4%は松江市の進学校・松江北高を上回る。
つぶさに見ると、直近3年で東京大に3人、京都大に5人が現役合格。今春、旧7帝大と東工大、神戸大、一橋大を合わせた難関10大学は13人、広島大、岡山大などのブロック大は27人がその門をくぐった。
国公立大医学科の合格者数が、既卒生を含め過去10年間2桁を維持するのも県内トップ。21年度は現役生12人が合格した。
進学校としての地歩が、初めから定まっていたわけではない。きっかけがある。島根県による1965年の学区制の変更だ。
県立出雲高となったのは48年。当初は就職や家庭従事を希望する生徒が多かった。学区制の変更により校区が広がり、出雲、大社、平田の普通高3校のうち、「中心地」で、交通の便がよく、規模の大きい出雲へ、中学校の成績上位者が集まるようになった。
▼SSHに指定
「1日6限」の授業に加え、朝補習、7限がスタート。県や地域の期待に応える形で66年に補習科、69年に理数科ができた。73年に島根医科大(現島根大医学部)の出雲市誘致が決まる巡り合わせから、医学部への関心が高まり、理数科生の半数が医学部を目指した年もある。
歩みを振り返る90年発行の校史にこうある。学校外から寄せられる大きな期待感に教師も生徒も緊張し、一種の使命感を持つことになる-。
2013年にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定された。文部科学省から「国際的に活躍する科学技術関係の人材を育てる、先進的な理数系教育に取り組む高校」に位置づけられたことを意味する。特徴は、理数科だけでなく、普通科も課題研究に取り組む点。学校を訪ね、授業をのぞくと、「詰め込み型」の従来の進学校のイメージとは異なる学びの形があった。
今月中旬、普通科2年生の7限。総勢239人が、3~5人のグループに分かれて2年がかりで取り組む、生活科学、生命・食農、環境エネルギーなど七つあるゼミの研究テーマを発表した。
「シジミの貝殻で殺菌はできるか」をテーマにした生活科学ゼミのメンバーが「先輩も同じテーマで研究したけど、分析していない数値があるので引き継いで検証したい」と説明すると、「去年は何で失敗したの」「今年はどうやって研究する?」と、疑問、質問が飛び交った。
人工知能(AI)の台頭や急速に進むグローバル化に対応するため新学習指導要領は、生徒の主体性、思考力や判断力、表現力の育成を重要視する。SSHの課題研究は、それぞれを磨く場。担当教員の飯塚洋教育開発部長は言う。「変わりゆく世の中に順応するだけでなく、イノベーション(技術革新)ができる人材を育てる夢がある」。共に未来を創っている。
(平井優香)
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変容する社会、多様化する価値観の中でも、まちは人がつくる。未来を創る人材は、この地で育まれている。子どもたちのニーズに応え、進学、就職、さらなる夢への扉を開く、出雲市の「学びの場」をリポートする。