課題研究で「5軸マシニングセンタ」の操作を学ぶ機械科の3年生=出雲市上塩冶町、出雲工業高校
課題研究で「5軸マシニングセンタ」の操作を学ぶ機械科の3年生=出雲市上塩冶町、出雲工業高校

 大手自動車会社でも使われるプラスチック製品の製造工程で製品を持ち出す「合成樹脂成形取出ロボット」の世界トップメーカーが、1992年に出雲市斐川町直江に進出してから、ちょうど30年になる。

 産業用ロボット製造のスター精機の出雲工場。同社の国内生産高の約75%を占める主力工場だ。加工機や溶接用機械、フレームなどの部品が並ぶ場内で、社員たちが黙々とロボットの配線やアームを取り付けていた。

 工場で働く社員100人中、約40人が出雲工業高校(出雲市上塩冶町)の卒業生。例年、機械科や電子機械科から採用。取引先の要望を受けて設計する技術部門、溶接や組み立てをする製造部門の即戦力となる。出川祐二工場長(52)が「うちにとって出雲工業は大きな存在」というのもうなずける。

 本社は愛知県大口町にある、合併前の旧斐川町時代の進出企業。当初の160人の採用が、出雲工業高を含む出雲市内の高校生らで埋まり、地域との関係が始まった。

 ものづくりに関する技術、知識のレベルの高さが「関係維持」の要諦。入社14年目の嘉藤翼さん(32)は電子機械科卒業生。「高校で学んだ基本が生きている」と機械設計に携わる現場で、日々実感している。

▼工業団地造成

 出雲工業高は62年の開校。前身の44年発足の今市工業学校は太平洋戦争時の戦力増強が目的だった。戦後、商業科を設置した出雲商工高、さらに出雲農林高と統合した出雲産業高を経て、現在に至る。

 卒業生会の元会長原隆利さん(73)は、技術者が必要だった高度経済成長期や戦後生まれの「ベビーブーマー」の受け皿の役割を果たした母校の歴史とともに「地元に大きな企業が少なく、県外就職者の方が多かった」と振り返る。

 流れが変わったのは70年代以降。72年に浮上し「昭和のくにびき」と呼ばれた市内最大の長浜中核工業団地(出雲市長浜町、66ヘクタール)の造成、旧斐川町時代の出雲村田製作所、島根富士通などの進出が大きい。2019年工業統計調査で、4人以上の事業所で働く製造業従業者が松江市(6864人)の2倍を超える1万4852人という、現在の礎にもなった。

▼期待に応える

 機械、建築、電気、電子機械の4科ある出雲工業高は、21年度の卒業生142人中、就職したのは85人。71人が県内就職、うち55人が市内企業で、あらためて地元志向の高さを示した。同校の大森直人進路指導主事はその理由として「受け皿があること」を挙げる。

 期待に応えるべく学校側も力が入る。6月上旬、機械科の3年生5人が「5軸マシニングセンタ」と呼ばれる、ステンレスなどの材料を削る最先端の加工機と向き合っていた。

 国の補助金を活用し6160万円をかけて3月に導入されたばかり。縦、横、高さ、回転、傾斜の五つの5軸で削ることができるため、複雑な形状でも短時間で加工できる優れものだ。

 使いこなすには既に学んだ切削の基礎に加え、設計、さらに機械に指示を出すプログラムの知識が必要だが、浅野千弘さん(17)は「操作は大変だが、『最新鋭』に触れられることは新鮮だ」と目を輝かせる。

 製造業の人手不足に伴い現場では加工機の導入が進む。機械科の金子裕之教諭は「学校で学んだ知識と経験を企業で生かせる教育をすることで、学校と企業の連携が深まる」と話す。日進月歩の世界で求められる変化や高度化にも対応し、切っても切れない関係が続いていく。

 (松本直也)