誤給付問題を巡り、山口県阿武町で開かれた住民向け説明会で謝罪する花田憲彦町長(手前)=6月1日
誤給付問題を巡り、山口県阿武町で開かれた住民向け説明会で謝罪する花田憲彦町長(手前)=6月1日

 日本海に面した人口3千人余りの田舎町を舞台にした前代未聞の騒動がようやく収束した。山口県阿武町が給付金4630万円を誤って24歳の男性1人に振り込んだことが発端の事件は、男性が返還を拒み、オンラインカジノで使い果たしたと供述、逮捕されたことで世間の注目を集め続けた▼2カ月半を経て給付金は全額回収できることになったが、町のイメージダウンは免れない。今回のミスを教訓に、他自治体も改めて公金の取り扱い体制を点検してほしい▼島根県境から2キロしか離れていない阿武町は、4年前にも全国にその名が知れ渡ったことがある。防衛省が秋田、山口両県で進めた迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画に唯一、明確に反対する様子が報じられた▼計画は町民の懸念通り、迎撃ミサイルの推進装置の落下地点の安全確保が難しいことが判明し、導入断念に行き着いた。町長、町民のまちづくりに懸ける思いの強さは際立っていた▼「平成の大合併」で単独町制を選んだ町にはコンビニが一つもない。だが長年の定住推進策によって若い世代が続々と転入する。今春には遊休地にキャンプ場を開設し、人とお金の地域内循環を目指す仕組みもつくった。災い転じて福となす-。不本意な形で高まった認知度を逆手に取り、地方創生のモデルとして異彩を放ち続けてほしい。きょうは日付にちなんだ「七転八起の日」。(文)