自民党の安倍元首相が街頭演説中に男に銃撃され、騒然とする現場付近=8日午前11時42分、奈良市
自民党の安倍元首相が街頭演説中に男に銃撃され、騒然とする現場付近=8日午前11時42分、奈良市

 参院選の投票を2日後に控えた昨日の白昼、絶対にあってはならないことが起きてしまった。安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され、救急搬送された。背後から首を2カ所撃たれて心肺停止状態になり、同日夕に亡くなった▼襲ったのは奈良市の41歳の元海上自衛隊員で、その場で逮捕された。公衆の面前で起きたとんでもない事件。たとえ主義主張が違っていても、どんなに気にくわない相手でも、暴力で言論を封じようとする行為は民主主義に対する挑戦である。断じて許せない▼歴代最長の通算3188日も首相を務め、今は自民党最大派閥の会長でもある安倍元首相を巡っては、その影響力や政治手法からか、一方で批判されることもあった。しかしそれはあくまでも政治の世界でのこと▼戦前は、日本が岐路を迎えるタイミングで原敬や浜口雄幸、犬養毅ら大物政治家が襲撃された悪(あ)しき歴史がある。戦後も日米安保条約を巡って世論が割れた1960年には、安倍元首相の祖父に当たる岸信介元首相、当時の浅沼稲次郎社会党委員長が相次いで刃物で襲われている▼21世紀の日本で、そんな歴史をもう繰り返してはならない。あす投票を迎える参院選は、ウクライナ侵攻や原油高、憲法改正問題への対応など、日本の針路を左右することになる。だからこそ、いま一度確認したい。封じるべきは暴力であって言論ではない、と。(己)