作品を制作する野村康生さん=益田市内田町、内田交流センター
作品を制作する野村康生さん=益田市内田町、内田交流センター

 先月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を退職した宇宙飛行士の野口聡一さん(57)が国際宇宙ステーションでの体験を基にまとめた論文がある▼船内で撮影した乗組員の写真を分析すると、無重力で上下のない空間では、司令官の頭上でリラックスしたポーズを取るなど、役職や階級の上下関係を意識しない位置取りや並びが多く見られた。人間関係のしがらみからの解放か、地上の常識が非常識なのか▼そんな無重力の現象に益田市出身でニューヨーク在住の現代アート作家、野村康生さん(43)は創作のアイデアを得ているという。世界観を変えた東日本大震災後から本格的に取り組むテーマが宇宙であり「高次元」の空間概念だ▼物理学者や数学者らと対話を重ね、たどり着いた独自の理論で見る人を不思議な感覚にいざなう。固定観念や当たり前の意識が邪魔して実は見えていない世界があるのでは-。益田市の石見美術館で開催中の平川紀道さん(40)=浜田市出身=との二人展はそんなメッセージを投げかける▼3度の宇宙飛行を経験した野口さんは自著でこう語る。困難に突き当たったとき、<1次元より2次元、2次元より3次元と、視点をひとつ高い「次元」に置いてみれば、新しい解決策が見つかるんじゃないか>(『宇宙飛行士野口聡一の全仕事術』)。閉塞(へいそく)感が色濃い社会にあって、アートの世界から高次元を体験してみるのもいい。(史)