伝統的な街並みが残る大田市大森町
伝統的な街並みが残る大田市大森町

 根本的な決まり、おきてを意味する「憲」を聞いてまず思い浮かぶのは、日本国憲法。もう一つ、全国各地の自治体などが定めている「憲章」がある▼明治維新に際して新政府が国の方向性を示した「五箇条の御誓文」が源流とされる日本の市民憲章は、その土地の人が大切に守るものや、生き方を表現する。ただ、「自然、環境を大切にします」「いきいきとしたまちにします」など、どの自治体でも当てはまる内容が多いせいか、話題になることはめったにない▼その大切さを改めて感じる機会があった。今月3日、大田市の石見銀山遺跡が世界文化遺産に登録されてから15年になるのを記念したシンポジウム。江戸時代から残る「陣屋町」の景観を守る地元の大森町民が登録を機に2007年8月に作った3項目の「住民憲章」が紹介された。特に「おだやかさと賑(にぎ)わいを両立させます」の最後の項目は、約400人の地元住民が日々の暮らしのペースを守りながら、価値を外に発信する全員の静かなる決意と受け止められる▼登壇した発言者から「川で子どもが遊んでいる」「路地で住民が立ち話をしている」「家の軒先に花が飾られている」といった何げない所作をいとおしむ声が相次いだのは、長年にわたる住民の実践のたまものだろう▼市町村でも自治会でも家族でも、自らの言葉で行く道を語り、表現できるのは大きな強みだと言える。(万)