人の移動が増える盆休み期間に新型コロナウイルス流行の「第7波」がピークを迎え、多くの地方で入院病床や保健所業務の逼迫(ひっぱく)を招いている。政府に助言する専門家らは窮状打開に向け、感染者全数報告の変更、一般の診療所でも治療できる体制づくりを緊急提言した。しかし政府は第7波が落ち着いてから見直すとの姿勢を崩さない。
専門家が抱くのは、感染力は強いが重症化しにくいオミクロン株の特徴に合わせて対策を変えなければ現場がパンクするという危機感だ。それは都道府県知事らも共有する。だが国の腰は重い。リーダーシップを発揮しないのはどうしたことか。
政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らは「感染が収まってからやるのは今の状況にふさわしくない」と強調。直ちに実施すること、感染が落ち着いた後の法改正を伴う全面的見直しの2段階の提言をした。政府が分科会開催に抵抗したため有志による公表だった。
新型コロナは感染症法上、危険度が高い「2類相当」のため、発熱外来があり行政が指定する医療機関が診療に当たる。保健所などを通じた全感染者の届け出も必要だ。これに対し提言は、早急に一般の診療所で基本的治療ができるようにし、感染状況は重症化の恐れがある人の情報を集めて把握するように求めた。
日本感染症学会など4学会も、重症化リスクが低く症状が軽ければ医療機関に行かず自宅で療養して様子を見るよう求める声明を発表した。オミクロン株は感染した場合も多くの症状は4日以内で軽くなり、重症化する人は数千人に1人程度というのがその理由だ。
提言はいずれも、コロナ以外の重病、重傷、熱中症などを含め救える命を救うには法改正を待たずすぐに現場へ手を打て、という専門家の警鐘だ。
今の医療逼迫は、陽性や陰性の証明を求め病院に殺到したり、受診予約が取れないと救急車を呼んでしまったりする例が多いことも原因とされる。自宅療養推奨のためにも、自分で手軽に検査できる抗原検査キットの普及に政府は引き続き力を尽くす必要もある。
さらに第7波で目立つのは、病床が埋まる前に感染者、濃厚接触者の急増で医師、看護師らの人繰りが厳しくなったり、電車など公共交通が運休に追い込まれたりしている点だ。これらを放置すれば、岸田文雄首相が目指す「感染防止と社会経済活動の両立」は到底実現しない。
突き上げられた格好の政府は、濃厚接触者の待機期間を従来の7日間から最短3日間に短縮。現場の負担軽減のため感染者の発生届の内容も簡略化した。だが「今の段階でやめる議論はしていない」(後藤茂之前厚生労働相)と全数報告見直しや対応医療機関の拡大の早期実施には否定的だ。
感染症法上の扱いを季節性インフルエンザ並みの5類へ格下げし治療、検査を原則有料にするなどは、渦中の今は確かに混乱を伴う。だが専門家が言うように運用変更で対応可能なことは即やるべき時ではないか。首相自身が「最悪の事態を想定し、先手、先手で対応する」と言ったはずだ。
もちろん対策の見直しが国民の不安を招いてはいけない。オミクロン株に対応した「2価ワクチン」の普及を急ぐなど、秋冬に警戒される次の流行まで想定し体制を整える必要がある。