1945年8月15日、昭和天皇の「玉音放送」で終戦を知り、皇居前でひざまずく人たち
1945年8月15日、昭和天皇の「玉音放送」で終戦を知り、皇居前でひざまずく人たち

 多くの犠牲者を出した先の大戦の終結から77年が過ぎた。世界的にコロナ禍が続く中、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、エネルギーや食料の価格が高騰。安倍晋三元首相が凶弾に倒れる事件も起きた。岸田文雄首相は「戦後最大級の難局」と強調する▼出口や先行きが見えない事態が重なる中で、気が付くと世の中の「空気」が「冷静に」とか「慎重に」という言い方をしづらくなっていないだろうか。防衛費の大幅増額や「反撃能力」の保有論に憲法改正の動き。安倍元首相の「国葬」の問題もそうだ▼石橋湛山元首相と親しかったジャーナリストの清沢洌(きよし)は戦時中の日記に<不思議なのは「空気」であり、「勢い」である。(中略)日本のものは特に統一的である。この勢(い)が危険である>と記した▼その分かりやすい例の一つが、戦時中の日本でのヒトラー熱。作家の阿川弘之さんは著書の中で<ドイツドイツと草木もなびく>と表現。<民衆の、このヒトラー賛歌が、政府と軍の親独路線を支えた>と振り返っていた。当時を知らない世代にとっては信じられないような話だ▼清沢は日記の別の日に<今度の戦争で、日本人は少しは利口になるだろうか。非常な疑問である>と危惧した。「空気」に支配されやすい国民性は、そう簡単に変わらないだろう。だからこそ、危うい空気に「冷や水」をかけるのは層が厚くなった年寄りの役目だ。(己)