昨年、俳優生活40周年を迎えた中井貴一さん(60)のデビュー作は、1981年公開の映画『連合艦隊』。当時はまだ大学生で、俳優だった父親・佐田啓二さん(1926~64年)の十七回忌法要の席上、スカウトされたのがきっかけだった▼声をかけたのが、江津市桜江町出身の映画監督・松林宗恵(しゅうえ)さん(1920~2009年)。もしその誘いがなかったら、シリアスな芝居からコメディーまで幅広く演じる屈指の名優は、存在しなかったかもしれない▼1960年代後半から、米子市出身の映画監督・岡本喜八さん(1924~2005年)と共に銀幕を盛り上げた松林さんは、森繁久弥さん(1913~2009年)主演の「社長シリーズ」をはじめ喜劇作品で知られる▼一方で戦争映画も5本手がけた。山本五十六ら歴史に名を残す軍人を扱った英雄譚(たん)が多い中、戦艦大和が撃沈するまでの軌跡を描いた『連合艦隊』でこだわったのが「市井の目から見た戦争」。連合艦隊に関わる二つの架空の家庭を中心に、戦場に息子たちを送り出す家族の思いを描いた。中井さんは戦場に送られた特攻隊員を演じていた▼松林さん自身も太平洋戦争に駆り出され、海軍少尉に任官。中国に向かう船が撃沈されながらも九死に一生を得た。先立った仲間と残された家族の悲しみが、常に頭の中にあったのだろう。きょうは77回目の終戦記念日。松林さんの命日でもある。(健)