国内には計画されながら建設が進まなかったり、途中で放棄されたりした鉄道路線がいくつかある。「未成線」と呼ばれる路線である▼山陰両県でよく知られるのが、広島市と浜田市を結ぶ計画だった広浜(こうひん)鉄道のうち島根側ルートの今福線。戦前と戦後の2度建設が始まり、共に戦争や経済情勢に阻まれて頓挫した。一方、アーチ橋をはじめ鉄道遺構を観光資源として生かす動きが活発だ。先人の努力を無にしてはなるまい▼山口県岩国市と島根県日原町(現津和野町)を結ぶ岩日(がんにち)線という未成線があったことを最近知った。一部開業したものの、島根側は1980年の国鉄再建法成立で中止。それでも岩国市内では路盤跡地を利用し、観光トロッコ遊覧車を運行。人気を集めているという▼未成線に対し、開業した鉄路を「既成線」と呼ぶ。ただ地方路線は人口減少やマイカー普及で苦境に立つ。4年前に廃止されたJR三江線が象徴的。その後はコロナ禍もあり存廃判断を迫られている▼岩日線については神戸新聞総合出版センター発刊の『走らなかった鉄道』(松村真人著)で知った。全国の地方新聞計28社が発行した書籍を集め、あすまで松江市田和山町の今井書店グループセンター店で開催中の「ふるさとブックフェア」で見つけた。フェアには廃止路線を紹介する書籍もあったが、〝走れなくなった鉄道〟の紹介本がこれ以上増えるのはさみしい。(健)