「完璧な旅だった。もし可能ならもう一度、同じ旅をしたい」。男子テニスの「生ける伝説」ロジャー・フェデラー選手(スイス)がラケットを置いた。41歳。ロンドンで行われた現役最後の試合後のインタビューでは本人も、見る側も熱い涙で目を腫らした▼王者の風格の持ち主だった。2017年の全豪オープンで見せた、膝のけがからの鮮やかな復活を思い出す。約半年休養し、当時の世界ランキングは17位。8強を懸け、5位の錦織圭選手と対戦した。勢いの差もあり、現地に派遣した記者からは「これで錦織選手が勝てば時代が変わる」という興奮が伝わった。しかし、そうはならなかった▼「生ける伝説」は頂点に上り詰め、その後さらに四大大会を2度制した。世界1位にも36歳で返り咲いた。故障は限界に挑むトップアスリートの宿命。復活の最高のモデルを示したという意味でも功績は大きい▼左股関節手術から復帰を目指す錦織選手は、10月3日開幕の楽天ジャパン・オープンも欠場。心配したが「また来年、強くなって戻ってきたい」とのコメントが希望の灯をともした▼8月のWOWOWのインタビューでは逆境を「好き」と表現して、「乗り越えたところに必ず楽しいことが待っている」と力を込めた。32歳。まだ旅の途中。厳しい道のりでも夢を見せるのがスーパースターの使命だとすれば、夢を見るのはファンの特権である。(吉)