安倍晋三元首相の国葬で献花する岸田文雄首相=27日午後、東京都千代田区の日本武道館(代表撮影)
安倍晋三元首相の国葬で献花する岸田文雄首相=27日午後、東京都千代田区の日本武道館(代表撮影)

 「フェーズ」という言葉が浸透したのは、2019年ラグビーワールドカップからではないか。開催国・日本が躍進した大会だ。密集から球を出し攻撃すると1フェーズ。止められても再度密集から仕掛け数を重ねる。相手守備陣の意識を密集近くや遠くに向けさせる捨て石のようなフェーズも交ぜ、攻撃を続け前進する▼世間ではその時のフェーズに合わない言動は愚鈍に映り失敗もする。早いと勇み足、遅いと後の祭り。4183人が参列した安倍晋三元首相の国葬もそう。死去直後からはフェーズが変わり果て、同じ連続攻撃の中に組み込めないほど▼死去の6日後に岸田文雄首相が国葬実施を表明。「暴力に屈せず」「民主主義を守る」という主張は、一定の評価と共感を得た。だが自民党議員と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が世に出るに従って冷め、エリザベス女王の死去が駄目押しに。お手本のような国葬を見せられ著しくなえた▼その英国発祥のラグビーは順調にフェーズを重ねられるわけでなく、楕円(だえん)形の球ゆえの偶然性もあって双方がよく混乱する。強豪チームはそこでひらめき好機をつかむ▼岸田首相も「やっぱ国葬やめるわ」と引っ込めるタイミングがどこかにあったはずだ。その後の知性と柔軟性、つまり試合巧者のような方便が見ものだったが。信念を貫くというより頑迷な印象を残し、首相就任1年が近づく。(板)