住宅密集地で、40ミリホースを使い消火訓練に臨む新潟県糸魚川市の高齢者ら=同市内(同市提供)
住宅密集地で、40ミリホースを使い消火訓練に臨む新潟県糸魚川市の高齢者ら=同市内(同市提供)
消防団が使う消火栓は水圧が高く高齢者が扱うのは困難。小型の消火栓設備もわずかにあるが、あまり手入れされず劣化が課題だ=松江市島根町加賀
消防団が使う消火栓は水圧が高く高齢者が扱うのは困難。小型の消火栓設備もわずかにあるが、あまり手入れされず劣化が課題だ=松江市島根町加賀
住宅密集地で、40ミリホースを使い消火訓練に臨む新潟県糸魚川市の高齢者ら=同市内(同市提供)
消防団が使う消火栓は水圧が高く高齢者が扱うのは困難。小型の消火栓設備もわずかにあるが、あまり手入れされず劣化が課題だ=松江市島根町加賀

 松江市島根町加賀で32棟を焼いた火災では、常備消防の到着より、市中心市街地で働く例が多い地元消防団員の参集が遅く、消防団の今日的課題を浮き彫りにした。加賀地区に限らず、消防団は訓練された若い男性が担い、太いホースなど扱いに力のいる機材を使う。日中、若い男性が不在になりがちな郊外の地区で、高齢者や女性が戦力になれる消防団の在り方が問われる。 (報道部・多賀芳文、森みずき)

 加賀地区はもともと漁業集落として栄えたが、今や現役世代の多くが約15キロ離れた中心市街地に勤めに出る。日中は人けがなく、行商のトラックが来る時に高齢者が姿を見せるくらいだ。

 近くの自営業の60代男性は「昼間は若い人がいないからね」とつぶやく。

 火災の初期消火を担う消防団員は現役世代だ。勤務時間と重なれば早期の対応はおのずと困難になる。地元の50代消防団員は、火災当日、団員の参集が常備消防の到着より遅かったとみる。「出動連絡があっても30~40分以上かかる」と悩ましさを口にした。

▽機材の扱い危険

 松江市消防本部によると、市内の4月現在の消防団員数は2004人。定員に対する充足率は89・9%と高水準維持している。平均年齢は44・2歳だ。

 ところが、加賀地区のように消防団員が日中、地元にいないとなると、いくら充足率が高くても、地域の安全が保てているとは言い難い。市消防本部の山田達也消防団室長は「難しい問題だ」と漏らす。

 では、地元にいる高齢者や女性が初期消火に当たれるのか。山田室長は「機材を扱うには危険が伴い、心配だ」と懐疑的だ。

 市内の消防団が扱うホースは常備消防と同じ65ミリ口径。かつて消防団の加賀分団長を務めた会社員、田中孝一さん(57)は「大人が何人かでホースを握らなければ制御できない水圧になる。ポンプを倉庫から出すにも何人もの団員が必要だ」と明かす。

 実際、消防団員はポンプ操法など鍛錬を積む。

 旧島根町時代の助役で、地域の変遷を見つめてきた湯畑重信さん(84)=松江市島根町大芦=は、市消防の出張所再編で2014年春に島根出張所が廃止された上、少子高齢化が止まらない現状を指摘。「地域も変わらなければならない」と、かみしめる。

▽ハードル下げる

 高齢化や人口減少を踏まえ、消防団の在り方を見直した実例はある。

 2016年12月に147棟を焼く火災を経験した新潟県糸魚川市は、消防団員が日中、地元を離れる課題に直面し、高齢者や女性で初期消火に当たれる方法を考えた。

 その象徴が、消火栓のホース口径を65ミリから40ミリに変更したことだ。米田徹市長のリーダーシップの下、約3500万円の予算を確保。1年ほどで市内全域の屋外消火栓の約3分の1に当たる約400カ所に40ミリホースを配備した。放水量は減るものの、扱える人のハードルが下がった。

 地域の火災訓練でも従来の消火器だけでなく、ホースの取り扱いを積極的に取り入れるなどして、火災の初期消火に消防団以外の地域住民が当たった事例も出始めた。同市消防本部消防防災課の竹田健一課長は「初期消火に対応できる人が増えることで地域の防災力は高まる」と話す。

 少子高齢化に加え、現役世代の地域偏在が進む中でいかに地域生活を守るか。過疎高齢化の先進地・島根県として、従来の常識にとらわれない地域防災を再考していいはずだ。