健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用するための読み取り機とPRキャラクターのマイナちゃん=2021年10月、東京都内
健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用するための読み取り機とPRキャラクターのマイナちゃん=2021年10月、東京都内

 先日、郵便局の窓口で話し込んでいるお年寄りを見かけた。80代後半の感じだった。キャッシュカードをどこにやったか分からなくなったらしい。年を取ると忘れ物をしたり、物をどこに置いたか思い出せなかったりすることがある。人ごとではない▼高齢者にとってもう一つ厄介なのはデジタル化の進展。スマートフォンに慣れたと思ったら、今度は2024年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードを使う「マイナ保険証」に切り替えるという。同カードの実質的な義務化に近い。運転免許証との一体化も、24年度末の予定を早めるらしい▼デジタル化の必要性やメリットは分かる。ただ身近な制度が次々に変わると高齢者の中には付いていけない人も出てくる。おまけにさまざまな情報を集約したカードを日常的に持ち歩くようになれば紛失する恐れは増す▼タイミングもどうかと思う。1人暮らしの高齢者は既に670万人。25年には「団塊の世代」が全員75歳以上になるのに加え、認知症の人も推計で700万人に達する。こうした人たちが取得段階や、その後の生活で困らない対応がどこまでできるか▼首相はマイナ保険証を持たない人向けの制度も用意するというが、対応が複雑になるほど混乱は起きやすい。ここは「急がば回れ」。今は希望者だけが持つ同保険証の長所、短所を丁寧に説明し、理解を得ながら進めた方がいい。(己)